日本の会社は、社員を理由なしに解雇できません。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効になります(労働契約法16条)。海外本社の「at-will(いつでも理由なく解雇できる)」の発想は、日本法人の社員にはそのまま使えません。解雇を検討するときは、理由の整理、就業規則の確認、30日前の予告又は解雇予告手当(労働基準法20条1項)の順に進め、合意による退職も選択肢に入れます。
こんな場面で問題になります
- 海外本社から「来月末で日本の営業責任者を辞めさせるように」と指示が来た。
- 本社のグローバルな人員削減の方針で、日本法人も一定数を減らすよう求められている。
- 業績評価が低い社員について、本社の人事が「Performance Improvement Plan の期間が終わったので終了してよい」と言っている。
- 契約社員の契約期間の途中で、事業の縮小を理由に契約を終わらせたい。
日本では「理由のない解雇」は無効になる
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効です(労働契約法16条)。理由が必要なだけでなく、その理由で解雇まですることが相当かも問われます。
無効な解雇は、効力を生じません。会社が「すでに辞めた」と扱っていても、社員としての地位をめぐる争いになり得ます。本社への説明では、「解雇の通知を出せば終わる」わけではない点を最初に伝えます。
この規定は、社員の国籍や、会社が外資系かどうかで変わりません。労働基準法も、国籍を理由とする労働条件の差別的取扱いを禁じています(労働基準法3条)。外国人の社員にも、日本人の社員にも、同じ基準が適用されます。
雇用契約の準拠法を外国法にしていても
本社の書式で、雇用契約の準拠法を本国の法律にしている例があります。それでも、日本で働く社員が、日本法の特定の強行規定(当事者の合意で外せない規定)を適用するよう会社に伝えれば、その規定も適用されます(法の適用に関する通則法12条1項)。
このとき、労務を提供すべき地の法が、最も密接な関係がある地の法と推定されます(同条2項)。日本で働いている社員なら、通常は日本法です。準拠法を定めていない場合も、同じく労務を提供すべき地の法と推定されます(同条3項)。
解雇の理由は就業規則に書いておく
常時10人以上の労働者を使用する会社は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません(労働基準法89条)。就業規則には、退職に関する事項として「解雇の事由」を書く必要があります(同条3号)。懲戒の定めをするなら、その種類と程度も書きます(同条9号)。
厚生労働省の資料も、解雇などの退職に関する事項は就業規則に定めておく必要があるとしています。あわせて、就業規則を掲示・交付などで社員に周知することを求めています(労働基準法106条)。
実務では、まず日本法人の就業規則に、今回の理由にあたる解雇事由があるかを確認します。本社のグローバルポリシーだけで、日本法人の就業規則に定めがないという状態は避けます。
理由ごとの考え方
能力不足・勤務成績を理由とする場合
厚生労働省の資料は、能力不足を理由とする解雇について、裁判例の考え方を紹介しています。平均的な水準に達していないというだけでは足りないとされています。相対評価で順位が低いことや、教育・指導によって改善を図る余地があったかも考慮されます。
本社の人事評価の仕組み(PIP など)を使う場合は、日本法人で、具体的な指導の内容と期間、改善の状況を記録に残します。配置転換などで能力を生かす余地がないかも検討します。
懲戒解雇の場合
懲戒は、社員の行為の性質・態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められなければ無効です(労働契約法15条)。 懲戒をするには、就業規則にその種類と程度が定められていることが前提です(労働基準法89条9号)。事実の調査、本人の言い分を聞く機会、過去の処分例との比較を経て判断します。
人員削減(整理解雇)の場合
会社の経営上の理由による解雇を、整理解雇といいます。整理解雇も、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められなければ、無効です。
厚生労働省の資料は、これまでの裁判例を参考に、次の点を慎重に検討するよう求めています。あわせて、労働組合との協議や労働者への説明を行うことも挙げています。
- 人員削減を行う必要性
- できる限り解雇を回避するための措置を尽くすこと(配置転換、出向、希望退職の募集など)
- 解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であること
同じ資料が紹介する裁判例は、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力、説明義務の履践を、重要な考慮要素としています。これが一般に「整理解雇の4要素」と呼ばれるものです。
本社への説明では、「グローバルで何%削減」という方針だけでは日本法人の必要性の説明として足りないことを伝えます。日本法人の財務状況、削減の人数の根拠、回避の努力、選び方の基準、説明の経過を、日本法人ごとに資料にします。
契約社員(有期労働契約)の場合
期間の定めのある労働契約では、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で解雇できません(労働契約法17条1項)。厚生労働省の資料も、期間の定めのない契約の場合よりも厳しく判断されるとしています。
契約期間の満了で更新しない(雇止め)場合にも、制限があります。過去に反復して更新され、雇止めが解雇と同視できる場合や、社員が更新を期待することに合理的な理由がある場合が対象です(同法19条)。このとき、雇止めに客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でなければ、従前と同じ条件で更新を承諾したものとみなされます。
更新を繰り返してきた契約社員について、「次は更新しない」と決めるときは、更新の経緯と説明の内容を確認します。
解雇してはいけない期間と理由
次の期間は、原則として解雇できません(労働基準法19条1項)。
- 業務上のけが・病気の療養のために休業する期間と、その後30日間
- 産前産後の休業期間(同法65条)と、その後30日間
例外は、打切補償(同法81条)を支払う場合と、天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合です(同法19条1項ただし書)。後者は、労働基準監督署長の認定を受ける必要があります(同条2項、労働基準法施行規則7条)。
このほかにも、法律で禁じられた解雇の理由があります。厚生労働省の資料は、国籍・信条・社会的身分、労働組合の組合員であること、性別・妊娠・出産、育児・介護休業の申出や取得、ハラスメントの相談、労働基準監督署への申告などを理由とする解雇を挙げています。
解雇の手続:30日前の予告か、解雇予告手当
社員を解雇しようとするときは、少なくとも30日前に予告しなければなりません(労働基準法20条1項)。予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払います。予告の日数は、平均賃金を支払った日数分だけ短くできます(同条2項)。例えば、20日前に予告して10日分の平均賃金を払う方法です。
予告も手当も要らないのは、天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合と、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合です(同条1項ただし書)。どちらも、労働基準監督署長の認定を受けなければなりません(同条3項、労働基準法施行規則7条)。懲戒解雇だからといって、会社の判断だけで予告手当を省けるわけではありません。
試用期間中の社員でも、14日を超えて引き続き使用されていれば、予告の規定が適用されます(労働基準法21条4号)。2か月以内の期間を定めて使用される人なども、所定の期間を超えて使用されると同じです(同条2号)。
注意したいのは、予告や手当は「手続」の要件だということです。予告手当を払っても、解雇に合理的な理由と相当性がなければ、労働契約法16条で無効になり得ます。
解雇理由の証明書とハローワークへの届出
社員が解雇の理由について証明書を請求したら、会社は遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法22条1項)。予告をした日から退職の日までの間に請求された場合も同じです(同条2項)。証明書に、社員が請求しない事項を書いてはいけません(同条3項)。
証明書に書いた理由は、後に争いになったとき、会社の主張の出発点になります。就業規則のどの条項にあたるのかを、事実とともに整理してから書きます。
厚生労働省の資料によると、一定期間内に相当数の離職者が出る場合や、外国人の社員を解雇する場合などは、ハローワークへの届出や通知が必要です。外国人の社員がいる日本法人では、この手続も忘れずに確認します。
解雇の前に検討すること:退職勧奨と合意退職
会社が社員に退職を勧め、社員が合意して退職する方法があります(退職勧奨)。会社が一方的に契約を終わらせる解雇とは異なり、社員の合意によって退職します。条件(退職日、退職金の上乗せ、有給休暇の扱いなど)を話し合い、合意書にまとめます。
ただし、厚生労働省の資料は、社員の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害にあたるとされる場合があるとしています。資料が紹介する最高裁判例は、ことさらに多数回、長期にわたる勧奨は不当な強要になる可能性が高いとしています。勧奨する人の数や優遇措置の有無なども、総合的に考慮されます。
退職させるための嫌がらせ(仕事を与えない、孤立させるなど)も、不法行為の責任を問われる裁判例があると同じ資料は紹介しています。面談の回数と時間、同席者、話した内容を記録し、断られたら繰り返し迫らないことが基本です。
争いになったとき
社員が解雇に納得しない場合、主に次のような手続で争われます。
- 労働審判:裁判所で、裁判官と労働関係の専門家で作る労働審判委員会が審理し、調停(話し合い)を試み、まとまらなければ労働審判を出します(労働審判法1条)。特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終えます(同法15条2項)。
- 異議と訴訟への移行:労働審判に2週間以内に異議が出されると、労働審判は効力を失い、訴えの提起があったものとみなされます(同法21条1項・3項、22条1項)。異議がなければ、裁判上の和解と同じ効力を持ちます(同法21条4項)。
- 都道府県労働局のあっせん:厚生労働省によると、労働局の紛争調整委員会によるあっせんは無料・非公開で、労働者・事業主のどちらからも申し込めます。
労働審判は3回以内の期日で進むため、会社側は最初の期日までに主張と証拠をそろえる必要があります。解雇を決めた段階で、理由と経過の記録を一つにまとめておくと、後の対応が速くなります。
海外本社への説明のしかた
本社への説明では、次の3点を短く伝えると理解されやすくなります。
- 日本では、解雇に合理的な理由と相当性がなければ無効になる(労働契約法16条)。通知を出しても雇用が終わらないことがある。
- 解雇の理由は日本法人の就業規則に定め、その理由にあたる事実を記録で示す必要がある。整理解雇なら、日本法人ごとに必要性・回避の努力・人選の基準・説明を示す。
- 合意による退職は実務でよく検討されるが、強要にならない進め方が必要である。
日程は、30日前の予告(又は解雇予告手当)、就業規則の確認、記録の整理の時間を見込んで組みます。本社の決算期や組織変更の日付に合わせて逆算すると、無理な日程になりやすいので注意します。
外国企業の日本での事業や英語でのご相談は「国際・渉外法務」をご覧ください。日本法人の組織・ガバナンスは「企業法務」で扱っています。雇用契約を含む契約の準拠法は「外国企業の日本進出」でも解説しています。
今すぐできること
- 日本法人の就業規則に、今回の理由にあたる解雇事由・懲戒事由が書かれているかを確認する。
- 対象の社員が、業務上の傷病による休業中や産前産後の休業中(とその後30日間)でないかを確認する。
- 能力不足なら指導の記録、懲戒なら事実調査の記録、整理解雇なら削減の必要性と回避策の資料をそろえる。
- 契約社員なら、契約期間と更新の経緯、更新について説明した内容を確認する。
- 30日前の予告か解雇予告手当かを決め、日程を逆算する。予告を省くなら労働基準監督署長の認定が必要かを確認する。
- 退職勧奨を行うなら、面談の回数・同席者・条件を事前に決め、記録を残す。
- 本社には、日本の解雇のルールと日本法人の記録をもとに、判断の材料を書面で伝える。
弁護士に相談すべきタイミング
- 海外本社から、特定の社員を期限付きで辞めさせるよう指示された。
- 日本法人で、複数の社員の人員削減を検討している。
- 懲戒解雇を考えているが、就業規則の定めや事実の調査に不安がある。
- 退職勧奨を断られ、次の進め方を決めかねている。
- 社員から解雇理由証明書の請求や、労働審判の申立書が届いた。
当事務所は、外国企業の日本法人の労務・企業法務について、日本語と英語でご相談をお受けしています。お問い合わせページからご連絡ください。
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労働問題のご相談は、初回30分無料です
- ・日本・ニューヨーク州の弁護士 阿部祐介が担当します
- ・オンライン(Zoom等)・来所(東京・大手町)どちらも可
- ・日本語・英語のどちらでもご相談いただけます
よくあるご質問
雇用契約の準拠法を本国の法律にしていれば、日本の解雇規制は適用されませんか?
日本で働く社員が日本法の特定の強行規定を適用するよう会社に伝えれば、その規定も適用されます(法の適用に関する通則法12条1項)。労務を提供すべき地の法が最も密接な関係がある地の法と推定されるため(同条2項)、日本で働く社員なら通常は日本法です。準拠法の条項だけで日本の解雇規制を外すことは難しいと考えておきます。
解雇予告手当を払えば、すぐに解雇できますか?
予告手当(30日分以上の平均賃金)を払えば、30日前の予告の代わりになります(労働基準法20条1項)。ただし、これは手続の要件です。解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、手当を払っても無効になり得ます(労働契約法16条)。
試用期間中なら自由に解雇できますか?
試用期間中の解雇も解雇であり、合理的な理由と相当性が必要です(労働契約法16条)。予告の規定は、試用期間中でも14日を超えて引き続き使用されていれば適用されます(労働基準法21条4号)。
懲戒解雇なら、解雇予告手当を払わなくてよいですか?
予告も手当も要らないのは、労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇などで、労働基準監督署長の認定を受けた場合です(労働基準法20条1項ただし書・3項、労働基準法施行規則7条)。懲戒解雇という名前をつけただけでは省けません。懲戒自体も、相当性を欠けば無効です(労働契約法15条)。
退職勧奨をしてもよいですか?
退職を勧めること自体は、合意による退職を目指す方法として検討されます。厚生労働省の資料は、社員の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は違法な権利侵害にあたるとされる場合があるとしています。回数・時間・同席者・条件に配慮し、断られたら繰り返し迫らないことが大切です。

