生成AIが作った文章・画像・プログラムは、日本でも多くの場面で商用利用できます。ただし、著作権のリスクは「学習」ではなく「出力をどう使うか」の段階に集まります。AIの学習を広く認める著作権法30条の4は、出力物の利用までは守ってくれません。出力物が既存の著作物と似ていて、それに依拠していると評価されれば、使った会社が差止めや損害賠償を求められる可能性があります。
こんな場面で問題になります
- 広告バナーや商品パッケージの画像を、画像生成AIで作って使いたい。
- 生成AIで書いた記事やメルマガを、自社のサイトで公開している。
- 開発チームが、コード生成AIの出力をそのまま製品に組み込んでいる。
- 取引先から「AIで作った成果物に権利侵害がないことを保証してほしい」と求められた。
- AIで作ったロゴやキャラクターを、他社に真似されたので止めたい。
著作権法30条の4は何を認めているか
著作物は、著作物に表現された思想や感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合には、必要と認められる限度で、方法を問わず利用できます(著作権法30条の4)。「享受」とは、作品を見たり読んだりして楽しむことを指します。条文はその例として、情報解析の用に供する場合を挙げています(同条2号)。
情報解析とは、大量の情報から言語・音・影像などの要素に係る情報を抽出し、比較・分類などの解析を行うことです(同号)。文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)は、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合はこの「享受を目的としない場合」に当たると整理しています。
つまり、30条の4が主に関わるのはAIの開発・学習段階です。自社でAIを利用するだけの会社にとって、この条文は出力物の利用を正当化する根拠にはなりません。
30条の4が使えない場合
30条の4には、二つの限界があります。
一つ目はただし書です。著作物の種類・用途と利用の態様に照らして、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この規定は適用されません(著作権法30条の4ただし書)。
二つ目は、享受目的との併存です。「考え方」は、一つの利用行為に複数の目的がある場合、その中に一つでも享受の目的が含まれていれば、30条の4の要件を欠くとしています。例として、学習データに含まれる著作物の創作的表現を意図的に出力させるための追加学習を挙げています。
自社でAIに追加学習をさせたり、社内文書や他社の資料を検索させる仕組みを作ったりする場合は、この点が問題になります。特定の作品をそのまま出させることが目的に含まれていないか、設計の段階で確認しておく必要があります。
出力段階の判断:類似性と依拠性
生成物を作り、それを公開・配布する行為は、既存の著作物の著作権侵害になる可能性があります。「考え方」は、この場面では人がAIを使わずに創作する場合と同じ要件で考える必要があるとしています。
既存の判例では、ある作品に既存の著作物との類似性と依拠性の両方が認められるときに、著作権侵害となるとされています(「考え方」の整理による)。
- 類似性:生成物から、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感じ取れること。作風やアイデアが似ているだけでは足りません。
- 依拠性:既存の著作物をもとにして作られたこと。偶然似ただけなら依拠性はありません。
AIの場合の依拠性:知らなくても侵害になりうる
依拠性については、AI特有の論点があります。「考え方」は、次のように整理しています。
- 利用者が既存の著作物を知っていた場合:その著作物の創作的表現を持つものを生成させれば、依拠性が認められ、利用者による侵害が成立すると考えられる。例は、画像を入力して画像を出す使い方(Image to Image)や、作品名などの固有名詞を指示に入れる場合。
- 利用者は知らなかったが、AIが学習していた場合:客観的にアクセスがあったと認められるため、類似した生成物が出れば、通常、依拠性が推認され、侵害になりうる。
- 利用者が知らず、AIも学習していなかった場合:偶然の一致にすぎず、依拠性は認められない。
二つ目が実務上の要注意点です。担当者が元の作品を知らなくても、似たものが出て公開すれば、会社の責任が問われる可能性があります。なお「考え方」は、学習した作品の表現が出力されないよう技術的に担保されている場合には、依拠性がないと判断される場合もありうるとしています。
AI生成物に著作権は生じるか
自社で作った生成物を他社に真似されたときに、守れるかという問題もあります。著作物とは、思想や感情を創作的に表現したものです(著作権法2条1項1号)。
「考え方」は、人がAIを道具として使ったといえるかを、創作的寄与の程度で判断するとしています。考慮要素として挙げているのは、次の三つです。
- 指示(プロンプト)の分量・内容:創作的表現を具体的に示す詳細な指示は、寄与を認める方向に働く。アイデアを示すだけなら、長くても影響しない。
- 生成の試行回数:回数が多いこと自体は影響しない。生成物を見て指示を直しながら試行を重ねた場合は、著作物性が認められることもある。
- 複数の生成物からの選択:単に選ぶだけでは影響しない。
また、人が生成物に創作的な加筆・修正をした部分には、通常、著作物性が認められると考えられています。ロゴや主要なキャラクターなど、独占したいものは、人の手を入れて仕上げることが一つの方法です。
侵害した場合に会社が負うもの
著作権者は、侵害する者や侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止や予防を求めることができます(著作権法112条1項)。侵害によって作られた物の廃棄なども求められます(同条2項)。広告やパッケージであれば、回収や差し替えの費用が生じます。
故意または過失があれば、損害賠償の対象にもなります。著作権法114条は、損害額の推定などの規定を置いています。
故意による侵害には刑事罰もあります。個人は10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科です(著作権法119条1項)。業務に関して従業員などが違反した場合、法人にも3億円以下の罰金が科されることがあります(同法124条1項1号)。
「考え方」は、差止めは故意・過失を問わず可能であり、損害賠償には故意または過失、刑事罰には故意が必要と整理しています。利用者が元の作品を認識していなかった場合などは、受けうる措置は差止めにとどまり、損害賠償や刑事罰の対象にはならないとしています。ただし、その場合でも、使用料相当額などの不当利得の返還が認められることはありうるとしています。
今すぐできること
- 社内で使ってよい生成AIサービスと、用途ごとの使い方(社外公開・商用利用の可否)を決めて文書にする。
- 作品名・作家名・キャラクター名を指示に入れたり、他人の画像を入力して似たものを作らせたりすることを、社外向けの用途では禁止する。
- 広告・パッケージ・ロゴなど社外に出す生成物は、公開前に既存の作品と似ていないかを確認する手順を設ける。
- 利用しているAIサービスの規約で、生成物の権利の帰属、商用利用の可否、侵害時の補償の有無を確認する。
- どのサービスで、どの指示により、いつ生成したかを記録として残す。依拠性が争われたときの説明材料になります。
- 外注先がAIを使う場合の取り扱い(使用の可否、報告、権利の保証)を契約に入れる。
弁護士に相談すべきタイミング
- 権利者や代理人から、生成物について警告書や削除の要請が届いた。
- 生成物を広告・商品・ロゴなど、大きな費用をかけて使う前に、権利の状態を確かめたい。
- 自社でAIに追加学習をさせる、または社内外の資料を検索・出力させる仕組みを作る。
- 取引先から、AI生成物について権利の保証や補償の条項を求められた。
- 自社の生成物を他社に使われ、止めたいと考えている。
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- ・日本・ニューヨーク州の弁護士 阿部祐介が担当します
- ・オンライン(Zoom等)・来所(東京・大手町)どちらも可
- ・日本語・英語のどちらでもご相談いただけます
よくあるご質問
Q. 生成AIの出力を日本で商用利用してよいですか? 多くの場面で可能です。ただし、出力物の利用には通常の著作権侵害のルールが適用されます。既存の著作物と似ていて依拠性があれば、利用した会社が差止めや損害賠償を求められる可能性があります。
Q. 30条の4があれば、生成物は侵害になりませんか? なりえます。30条の4は享受を目的としない利用についての規定で、主に開発・学習段階に関わります。生成物を公開・配布する段階では、類似性と依拠性による通常の判断が行われます。
Q. 元の作品を知らなければ、責任を負いませんか? 知らなくても侵害になりうるとされています。そのAIが当該作品を学習していれば、類似した生成物について依拠性が推認されうるためです。故意・過失がなければ損害賠償や刑事罰の対象にはなりませんが、差止めを受けることはあり、使用料相当額などの不当利得の返還を求められることもありうるとされています。
Q. AIで作った画像に著作権はありますか? 指示の内容や試行の経過などから、人の創作的寄与が認められれば著作物になりえます。簡単な指示で出しただけの画像は、著作物と認められない可能性があります。人が創作的な加筆・修正をした部分には、通常、著作物性が認められると考えられています。
Q. 文化審議会の「考え方」に法的拘束力はありますか? ありません。「考え方」自体が、公表時点での小委員会としての一定の考え方であり、法的な拘束力を持つものではないと述べています。最終的な判断は裁判所が個別の事案ごとに行います。

