労働問題弁護士監修済
Q.残業代の計算方法を教えてください。
A.
1日8時間・週40時間を超えた分は25%以上、月60時間を超えた分は50%以上の割増賃金が必要です。法定休日は35%以上、深夜は25%以上です。
詳しく見る ▶
残業代は、「1時間あたりの賃金 × 割増率 × 時間数」で計算します。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間外労働は25%以上、月60時間を超えた部分は50%以上、法定休日の労働は35%以上、午後10時から午前5時までの深夜労働は25%以上の割増が必要です(労働基準法37条、割増賃金令)。1時間あたりの賃金を出すときは、家族手当・通勤手当・住宅手当など法令で定められた手当だけを除くことができ、それ以外の手当は含めて計算します。未払いの残業代は、当分の間、3年さかのぼって請求される可能性があります(労働基準法115条・附則143条3項)。
こんな場面で問題になります
・退職した社員の代理人から、過去3年分の残業代を請求する書面が届いた。
・「管理職だから残業代は不要」として扱ってきた社員から、支払いを求められた。
・月60時間を超える残業が出始め、50%の割増に対応できているか不安がある。
・資格手当や役職手当を割増賃金の計算から外していたが、それでよいのか分からない。
1. どの時間が「残業」になるのか
労働基準法の「時間外労働」は、会社が決めた所定労働時間を超えた時間ではなく、法定労働時間を超えた時間です。法定労働時間は、休憩時間を除いて1週40時間、1日8時間です(労働基準法32条)。
たとえば所定労働時間が1日7時間の会社で、ある日に8時間働いた場合、7時間を超えた1時間は「法定内残業」です。労働基準法37条の割増賃金を払う義務はありません。この1時間にいくら払うかは、就業規則や賃金規程、労働契約の定めによります。
会社が法定労働時間を超えて働かせ、または法定休日に働かせるには、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)と書面で協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法36条1項、いわゆる36協定)。協定で延ばせる時間の上限は、原則として1か月45時間・1年360時間です(同条4項)。臨時的な特別の事情がある場合でも、時間外労働と休日労働の合計は1か月100時間未満、2〜6か月の平均80時間以内に収める必要があります(同条5項・6項)。
2. 割増率の一覧
割増率の最低限度は、次のとおりです。
・法定時間外労働:25%以上(労働基準法37条1項、割増賃金令)
・法定時間外労働のうち、1か月60時間を超えた部分:50%以上(労働基準法37条1項ただし書)
・法定休日の労働:35%以上(割増賃金令)
・深夜労働(午後10時から午前5時まで):25%以上(労働基準法37条4項)
・時間外労働が深夜に及んだ時間:50%以上。そのうち月60時間を超えた部分は75%以上(労働基準法施行規則20条1項)
・法定休日の労働が深夜に及んだ時間:60%以上(同条2項)
月60時間を超える時間外労働の50%の割増は、中小企業にも2023年4月1日から適用されています。厚生労働省の案内では、月60時間の計算に法定休日の労働時間は含まれませんが、それ以外の休日(たとえば週休2日制の土曜日)の労働時間は含まれるとされています。
月60時間を超えた部分については、労使協定を結べば、引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(代替休暇)を与えることもできます(労働基準法37条3項)。代替休暇は、60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内に与える必要があります(労働基準法施行規則19条の2第1項3号)。
3. 1時間あたりの賃金の出し方
月給制の場合、1時間あたりの賃金は「月によって定められた賃金 ÷ 月の所定労働時間数」で計算します。月によって所定労働時間数が違う場合は、1年間の1か月平均の所定労働時間数で割ります(労働基準法施行規則19条1項4号)。日給制は1日の所定労働時間数で、出来高払制は賃金総額をその期間の総労働時間数で割ります(同項2号・6号)。
ここで間違いが起きやすいのが、手当の扱いです。割増賃金の計算の基礎から除外できるのは、次の7つに限られます(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条)。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
役職手当、資格手当、営業手当、皆勤手当などは、この一覧にありません。そのため、原則として計算の基礎に含めます。これらを外して時間単価を低く計算していると、残業代の全体が不足していることになります。
4. 計算の例
基本給26万円、役職手当2万円、通勤手当1万5千円の社員で、1年間の月平均所定労働時間が160時間の場合を考えます。
・計算の基礎:基本給26万円+役職手当2万円=28万円(通勤手当は除外できる)
・1時間あたりの賃金:28万円 ÷ 160時間 = 1,750円
・その月の法定時間外労働が20時間(うち深夜なし)の場合:1,750円 × 1.25 × 20時間 = 43,750円
同じ社員の時間外労働が70時間だった場合は、60時間までは1.25倍、60時間を超えた10時間は1.5倍で計算します。1,750円 × 1.25 × 60時間 + 1,750円 × 1.5 × 10時間 = 131,250円 + 26,250円 = 157,500円です。
5. 「管理職だから残業代なし」の注意点
労働時間・休憩・休日の規定は、「監督若しくは管理の地位にある者」には適用されません(労働基準法41条2号)。厚生労働省は、管理監督者を「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と説明し、肩書や職位ではなく、立場や権限を踏まえて実態から判断する必要があるとしています。役職名が「課長」「店長」であっても、十分な権限や相応の待遇がなければ管理監督者には当たらず、時間外・休日の割増賃金を払う必要があります。
また、厚生労働省のパンフレットは、管理監督者であっても深夜業の割増賃金は支払う必要があることを前提に、労働時間の把握や管理が行われると説明しています。管理監督者にも、深夜労働の時間は記録しておく必要があります。
6. 未払いがあった場合に会社が負うもの
賃金の請求権の時効は、法律上は5年ですが、当分の間は3年とされています(労働基準法115条、附則143条3項)。厚生労働省の案内では、この扱いは2020年4月1日以降に支払われる賃金に適用されるとされています。
さらに、裁判所は、37条に違反した使用者に対し、労働者の請求により、未払金と同じ額の「付加金」の支払いを命じることができます(労働基準法114条)。付加金の請求も、当分の間は違反のあった時から3年以内です(附則143条2項)。37条の違反には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則もあります(労働基準法119条1号)。
賃金台帳などの記録は、当分の間3年間の保存が必要です(労働基準法109条、附則143条1項)。また、会社は、面接指導のために労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません(労働安全衛生法66条の8の3)。請求を受けたときに会社側の反論の材料になるのは、こうした記録です。
今すぐできること
・就業規則・賃金規程で、所定労働時間と、法定内残業の扱いを確認する。
・割増賃金の計算の基礎から外している手当を一覧にし、施行規則21条の7つに当たるかを確認する。
・月60時間を超える時間外労働に50%以上の割増を払っているか、給与計算の設定を確認する。
・「管理職」として残業代を払っていない社員について、権限・働き方・待遇を整理する。
・36協定の内容と届出の有無、実際の時間外労働が上限に収まっているかを確認する。
・タイムカードや勤怠システムの記録と、PCのログなどにずれがないかを確認する。
弁護士に相談すべきタイミング
・退職者や代理人から、残業代の請求書や内容証明郵便が届いたとき。
・労働基準監督署から、調査や是正勧告を受けたとき。
・管理監督者の扱いや固定残業代の制度を見直すとき。
・複数の社員に同じ未払いがありそうで、遡って精算する方法を検討するとき。
よくあるご質問
Q. 所定労働時間が7時間の会社で、8時間働いた場合も割増は必要ですか?
A. 1日8時間・週40時間を超えるまでは、労働基準法37条の割増賃金を払う義務はありません。7時間を超えた1時間にいくら払うかは、就業規則や労働契約の定めによります。就業規則で割増を払うと定めている場合は、その定めに従います。
Q. 固定残業代を払っていれば、残業代の計算は不要ですか?
A. 不要にはなりません。実際の時間外・休日・深夜の労働時間で計算した割増賃金の額が、固定残業代として払った額を上回れば、その差額を払う必要があります(労働基準法37条)。そのためにも、毎月の労働時間を記録し、計算しておく必要があります。
Q. 法定休日に働いた時間は、月60時間の計算に入りますか?
A. 厚生労働省の案内では、法定休日に働いた時間は月60時間の計算に含まれません。法定休日の労働は35%以上の割増で計算します。法定休日以外の休日に働いた時間は、時間外労働として60時間の計算に含まれます。
Q. 残業代はどこまでさかのぼって請求されますか?
A. 2020年4月1日以降に支払われる賃金については、当分の間、3年で時効になります。これに加えて、裁判では未払金と同じ額の付加金の支払いが命じられることがあります。
※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。
