労働問題公開: 2026-03-13/更新: 2026-10-25約8分で読めます弁護士監修済

パワハラの定義と6類型|会社が講じるべき措置と相談への対応(2026年10月改正対応)

この記事のポイント

  • ✓パワハラは、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害するもの。3つの要素をすべて満たすものをいい、適正な業務指示や指導は当たらない
  • ✓厚生労働省の指針は、身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害の6類型を示している
  • ✓措置義務の条文は、2026年10月1日の改正法施行で労働施策総合推進法30条の2から31条に移った。中小企業も2022年4月1日から義務
  • ✓会社は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止を講じる必要がある
  • ✓相談を受けたら、相談者と行為者の双方から事実を確認し、聴き取りや判断の記録を残す。労働局による助言・指導や調停の制度もある
  • ✓慰謝料は50〜300万円が相場
この記事をシェア

パワーハラスメント(パワハラ)は、職場で、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、と法律と指針で定義されています。会社には、相談に応じて適切に対応する体制を整えるなどの措置を講じる義務があり、2022年4月1日からは中小企業も対象です。根拠となる条文は、2026年10月1日の改正法施行により、労働施策総合推進法30条の2から31条に移りました。相談を受けた会社は、相談者と行為者の双方から事実を確認し、記録を残し、事実が確認できれば被害者への配慮と行為者への措置を行う必要があります。

こんな場面で問題になります

  • 部下から「上司に毎日、皆の前で怒鳴られている」と人事に相談があった。
  • 業績の上がらない社員を厳しく指導したところ、パワハラだと言われた。
  • 退職した社員の代理人から、在職中のパワハラについて会社に損害賠償を求める書面が届いた。
  • 相談窓口は作ったが、相談を受けた後の手順が決まっていない。

パワハラの定義と3つの要素

法律は、事業主に対し、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、必要な措置を講じることを求めています(労働施策総合推進法31条1項)。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、この3つの要素をすべて満たすものをパワハラとし、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに当たらないとしています。

① 優越的な関係を背景とした言動

指針は、言動を受ける人が行為者に対して抵抗や拒絶ができない蓋然性が高い関係を背景としたもの、と説明しています。上司から部下への言動が典型ですが、それに限られません。業務上必要な知識や経験を持つ同僚・部下の言動で、その人の協力がないと業務が進まないものや、同僚・部下の集団による行為で抵抗や拒絶が難しいものも含まれます。

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

指針は、社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がない、または態様が相当でないものを指すとしています。判断には、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するとされています。労働者側に問題行動がある場合は、その内容・程度と、それに対する指導の態様との関係が重要な要素になる、とも書かれています。

③ 就業環境が害されること

指針は、言動により身体的・精神的な苦痛を与えられ、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すとしています。判断の基準は「平均的な労働者の感じ方」、つまり同じ状況で同じ言動を受けた場合に、社会一般の労働者が看過できない支障が生じたと感じるかどうかです。

この記事に関連する無料ツール

残業代計算ツール

この記事の分野に関連する無料シミュレーターをお試しください。

無料で試す →

指針が示す6つの類型

指針は、代表的な言動の類型として次の6つを挙げ、それぞれ該当すると考えられる例と該当しないと考えられる例を示しています。ただし、例は限定列挙ではなく、個別の状況で判断が異なり得るとされています。

類型該当すると考えられる例(指針より)該当しないと考えられる例(指針より)
身体的な攻撃(暴行・傷害)殴打、足蹴りを行う。物を投げつける誤ってぶつかる
精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)人格を否定する言動。必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返す。他の労働者の面前で大声で威圧的な叱責を繰り返す再三注意しても遅刻などが改善されない労働者に、一定程度強く注意する
人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)意に沿わない労働者を仕事から外し、長期間別室に隔離する。同僚が集団で無視して孤立させる新規採用者の育成のため、短期間集中的に別室で研修する
過大な要求新卒採用者に必要な教育をせず到底対応できない業績目標を課し、達成できないと厳しく叱責する。業務と関係のない私的な雑用を強制する育成のため、現状より少し高いレベルの業務を任せる
過小な要求管理職を退職させるため、誰でもできる業務を行わせる。嫌がらせのために仕事を与えない能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)職場外でも継続的に監視する。性的指向・性自認や病歴などの機微な個人情報を本人の了解なく他の労働者に暴露する配慮を目的として、家族の状況等をヒアリングする

実務で争いになりやすいのは、②の「業務上必要かつ相当な範囲」です。同じ注意でも、回数、時間の長さ、言葉の選び方、他の社員の前で行ったかどうかで評価が変わります。

会社が講じなければならない措置

指針は、事業主が講じなければならない措置として、主に次の4つを挙げています。

  1. 方針の明確化と周知・啓発:パワハラを行ってはならない旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する。行為者には厳正に対処する旨の方針と対処の内容を、就業規則などの文書に定めて周知・啓発する。
  2. 相談体制の整備:相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知し、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする。
  3. 事後の迅速かつ適切な対応:事実関係を迅速かつ正確に確認する。事実が確認できた場合は、被害者に対する配慮の措置と、行為者に対する措置を適正に行う。あわせて、再発防止の措置を講じる。
  4. 併せて講じる措置:相談者・行為者等のプライバシーを保護し、その旨を周知する。相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する。

相談したこと、または会社の対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは、法律で禁止されています(労働施策総合推進法31条2項)。

相談を受けたときの事実確認と記録

指針は、事実確認の方法の例として、相談窓口の担当者や人事部門などが、相談者と行為者の双方から事実関係を確認することを挙げています。その際、相談者の心身の状況や、言動を受けたときの受け止めにも配慮するとされています。双方の主張が食い違い、事実の確認が十分にできない場合は、第三者からも話を聴くなどの措置を講じるとされています。

会社が後で説明を求められたときに頼りになるのは、記録です。次のような記録を、事案ごとにまとめて保管しておくことが考えられます。

  • 相談を受けた日時、相談者、相談の内容(いつ、どこで、誰が、何を言った・したか)
  • 相談者・行為者・第三者から聴いた内容と、聴き取りの日時・担当者
  • 相談者から提出されたメール、チャット、録音などの資料
  • 会社が判断した内容と、その理由
  • 被害者への配慮の措置、行為者への措置、再発防止策として行ったこと

行為者への懲戒処分を検討する場合は、就業規則に定めた懲戒事由に当たるかを確認します。懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法15条)。

会社の法的責任

パワハラが起きた場合、会社は、行為者個人とは別に責任を問われることがあります。

  • 使用者責任:被用者が事業の執行について第三者に加えた損害は、使用者も賠償する責任を負います(民法715条1項)。
  • 安全配慮義務:使用者は、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をするものとされています(労働契約法5条)。

また、パワハラに関する労働者と事業主の紛争については、都道府県労働局長による助言・指導・勧告や、紛争調整委員会による調停の制度があります(労働施策総合推進法35条〜38条)。労働者がこれらを利用したことを理由とする不利益な取扱いも禁止されています(同法36条2項・37条2項)。

2026年10月1日の改正で変わったこと

令和7年法律第63号による改正法が2026年10月1日に施行され、パワハラの措置義務の条文は31条に、国・事業主・労働者の責務は32条に移りました。あわせて、顧客、取引の相手方、施設の利用者などの言動(いわゆるカスタマーハラスメント)についても、事業主に雇用管理上の措置を講じる義務が新設されています(同法33条)。社内規程や研修資料で「30条の2」を引いている場合は、条番号を見直す必要があります。

今すぐできること

  • 就業規則に、パワハラを行ってはならない旨と、行為者への懲戒の定めがあるか確認する。
  • 相談窓口の担当者と連絡先を、全社員が見られる場所に掲示しているか確認する。
  • 相談を受けてから事実確認、判断、措置までの手順と、記録の様式を決めておく。
  • 相談者や協力者を不利益に扱わないことを、規程と周知文書に明記する。
  • 管理職向けに、指針の「該当しない例」も含めた研修を行う。
  • 社内規程の条番号(30条の2→31条)と、カスタマーハラスメントの措置を見直す。

弁護士に相談すべきタイミング

  • 相談者と行為者の言い分が大きく食い違い、社内だけで事実を確定できないとき。
  • 役員や幹部社員が行為者とされ、社内の調査担当者が独立して判断しにくいとき。
  • 行為者への懲戒処分や配置転換を検討しているとき。
  • 被害を訴える社員や退職者、その代理人から、損害賠償を求める書面が届いたとき。
  • 労働局から助言・指導や調停の連絡があったとき。

よくあるご質問

Q. 厳しく指導しただけでも、パワハラになりますか? A. 指針は、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに当たらないとしています。一方で、必要以上に長時間の叱責を繰り返す、他の労働者の面前で大声で威圧的な叱責を繰り返すといった言動は、該当すると考えられる例に挙げられています。指導の目的、回数、時間、言葉の選び方が判断の分かれ目になります。

Q. 部下から上司への言動もパワハラになりますか? A. なり得ます。指針は、業務上必要な知識や豊富な経験を持つ部下の言動で、その協力がないと業務が困難なものや、部下の集団による行為で抵抗が難しいものも「優越的な関係」に含まれるとしています。

Q. 相談者が匿名を希望しています。どう対応すればよいですか? A. 指針は、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じることを求めています。誰にどこまで情報を伝えるかを相談者と話し合い、了解を得た範囲で事実確認を進めることが考えられます。

Q. 取引先の社員からの暴言も、会社が対応する必要がありますか? A. 2026年10月1日からは、顧客や取引の相手方などの言動で、社会通念上許容される範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、相談体制の整備などの措置を講じることが事業主の義務になりました(労働施策総合推進法33条1項)。

この記事をシェア
※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。

関連記事

パワハラ防止法|企業の義務と被害者が取れる法的手段

2020年施行のパワハラ防止法(労働施策総合推進法改正)に基づくパワハラの定義、企業の防止措置義務、被害者の救済方法を解説。

パワハラ・セクハラの証拠収集ガイド|録音・メール・日記の活用法

パワハラ・セクハラの証拠収集方法を実践的に解説。秘密録音の適法性、メール・チャットの保存方法、ハラスメント日記の書き方、医療記録の取得方法を説明します。

育児休業制度の基礎知識|取得条件・期間・給付金を解説

育児休業制度の取得条件、期間、育児休業給付金の計算方法、2022年改正(産後パパ育休)を解説。男性の育休取得促進策、不利益取扱いの禁止についても説明します。

有給休暇の基礎知識|付与日数・取得義務・退職時の消化

年次有給休暇の付与条件・日数・時季指定義務(年5日)・退職時の消化について解説。パート・アルバイトの有給取得、使用者の時季変更権の限界についても説明します。

テレワークの労務管理|在宅勤務の労働時間・費用負担・安全配慮と労災

テレワーク(在宅勤務)でも労働基準法・労働安全衛生法などは通常どおり適用されます。厚生労働省のテレワークガイドラインに沿って、労働時間の把握、事業場外みなし労働時間制が使える条件、中抜け時間、通信費・光熱費の負担と就業規則、安全衛生、労災の考え方を、会社が今すぐ確認できる手順とあわせて整理します。

会社の就業規則と副業|禁止規定の有効性と社員の権利

会社の就業規則で副業禁止と書かれていても、合理的理由がなければ無効です。就業規則の確認ポイント、副業禁止条項が違法になるケース、懲戒処分された場合の対処法を弁護士が解説。

関連するQ&A

あわせて読みたい記事

労働問題

有給休暇の基礎知識|付与日数・取得義務・退職時の消化

年次有給休暇の付与条件・日数・時季指定義務(年5日)・退職時の消化について解説。パート・アルバイトの有給取得、使用者の時季変更権の限界についても説明します。

労働問題

テレワークの労務管理|在宅勤務の労働時間・費用負担・安全配慮と労災

テレワーク(在宅勤務)でも労働基準法・労働安全衛生法などは通常どおり適用されます。厚生労働省のテレワークガイドラインに沿って、労働時間の把握、事業場外みなし労働時間制が使える条件、中抜け時間、通信費・光熱費の負担と就業規則、安全衛生、労災の考え方を、会社が今すぐ確認できる手順とあわせて整理します。

労働問題

会社の就業規則と副業|禁止規定の有効性と社員の権利

会社の就業規則で副業禁止と書かれていても、合理的理由がなければ無効です。就業規則の確認ポイント、副業禁止条項が違法になるケース、懲戒処分された場合の対処法を弁護士が解説。

企業法務

外国企業の日本進出|駐在員事務所・支店・子会社の選び方と契約の準拠法

外国企業が日本に進出するときの3つの形(駐在員事務所・支店・子会社)の違いを、会社法の条文に沿って整理します。登記前の継続取引の禁止、日本における代表者、株式会社と合同会社の違い、契約の準拠法と裁判管轄、外為法の届出、在留資格「経営・管理」の2025年10月の基準改正まで、進出前に確認すべき点をまとめました。

企業法務

外国企業と日本の個人情報漏えい報告|個人情報保護法の域外適用・報告期限・本人通知

日本の消費者に商品やサービスを提供する外国企業は、日本に拠点がなくても個人情報保護法の漏えい報告義務を負うことがあります。域外適用の範囲、報告が必要な4つの事態、速報(概ね3〜5日)と確報(30日・不正目的は60日)、本人通知、罰則、2026年7月公布の改正法を、条文と個人情報保護委員会のガイドラインに沿って整理します。

ネット問題

ネット誹謗中傷の発信者情報開示請求|手続きの流れと費用を解説

匿名のネット誹謗中傷に対し、発信者情報開示請求で投稿者を特定する方法を解説。2022年改正法の新制度、手続きの流れ、注意点を条文に基づいて説明します。

弁護士 阿部祐介

初回30分 無料相談

この記事の内容について、弁護士に直接ご相談いただけます

日本法・ニューヨーク州法の弁護士 阿部祐介が対応します。日本語・英語、オンラインでも承ります。

無料相談を予約する