外国企業が日本で事業を始めるときは、まず「駐在員事務所」「支店」「子会社」のどれで進出するかを決めます。外国会社は、外国会社の登記をするまで日本で取引を継続してすることができません(会社法818条1項)。そのため、営業を始めるなら外国会社の登記(支店を置く場合を含む)か子会社の設立が必要で、駐在員事務所は市場調査や連絡などの準備的な活動にとどまります。あわせて、現地で結ぶ契約の準拠法・裁判管轄、外為法の届出、経営者の在留資格を、進出計画の早い段階で確認しておく必要があります。
こんな場面で問題になります
- 本国の営業担当者が日本の顧客と継続的に契約を結び始めたが、日本では何の登記もしていない。
- 日本に支店を出すか子会社を作るかで社内の意見が割れ、責任の範囲と運営の手間を比べたい。
- 日本の取引先から日本法・東京地方裁判所を前提とした契約書の案が届き、本国の法律と裁判所に変えてよいか迷っている。
- 日本法人の代表者として本国から社員を送りたいが、在留資格の要件が変わったと聞いた。
進出の3つの形
駐在員事務所——登記をせず、準備的な活動にとどめる形
駐在員事務所は、会社法に定義がある形ではありません。外国会社の登記をしないまま、市場調査、情報収集、本国との連絡、広告宣伝の準備といった活動にとどめる拠点を、実務でこう呼んでいます。
登記をしていない外国会社は、日本で取引を継続してすることができません(会社法818条1項)。これに違反して取引をした人は、相手方に対し、外国会社と連帯して、その取引から生じた債務を弁済する責任を負います(同条2項)。さらに、会社の設立の登録免許税の額に相当する過料の対象にもなります(会社法979条2項)。
実務での注意点は、「事務所」という名前ではなく、実際にしている活動で判断されることです。日本の担当者が見積りを出し、契約を取り、代金を受け取るようになれば、それは取引の継続にあたり得ます。営業を始める時期が見えてきたら、支店か子会社への切り替えを計画に入れておきます。
支店——本国の会社がそのまま日本で営業する形
外国会社が日本で取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければなりません。代表者のうち1人以上は、日本に住所を有する者である必要があります(会社法817条1項)。日本における代表者は、その外国会社の日本における業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持ち(同条2項)、その権限に加えた制限は善意の第三者に対抗できません(同条3項)。
支店は別法人ではありません。そのため、支店の取引で生じた債務は、本国の会社自身の債務になります。日本での取引の失敗や紛争が、本国の会社の財産に直接及ぶことを前提に選ぶ形です。
子会社——日本の会社を新しく作る形
子会社は、日本の会社法に基づいて設立する別の法人です。一般には株式会社(KK)か合同会社(GK)を使います。親会社は出資した範囲で責任を負うのが原則なので、日本での事業のリスクを日本の子会社に区切ることができます。
株式会社(KK)と合同会社(GK)の違い
合同会社では、社員(出資者)の全員が有限責任社員です(会社法576条4項)。有限責任社員は、出資の価額(すでに履行した分を除く)を限度として会社の債務を弁済する責任を負います(会社法580条2項)。
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社は貸借対照表と損益計算書)を公告しなければなりません(会社法440条1項)。合同会社には、この決算公告の規定はありません。
選び方の軸は次のとおりです。
- 対外的な見え方:日本の取引先や採用市場では、株式会社のほうがなじみがあります。大企業との取引や金融機関との関係を重視するなら、株式会社を選ぶことが多いです。
- 運営の手間:合同会社は機関の仕組みが簡素で、決算公告もありません。親会社の100%子会社として、まず小さく始める場合に向いています。
- 将来の計画:日本での上場や外部からの出資を視野に入れるなら、株式会社のほうが進めやすくなります。合同会社から株式会社への組織変更も可能ですが、手続が必要です。
現地で結ぶ契約の準拠法と裁判管轄
準拠法は当事者が選べる
契約の成立と効力は、当事者が契約の当時に選んだ地の法によります(法の適用に関する通則法7条)。選んでいないときは、契約の当時に最も密接な関係がある地の法によります(同法8条1項)。契約で特徴的な給付(物を売る、サービスを提供するなど)を当事者の一方だけが行う場合は、その当事者の常居所地法(事業所がある場合はその事業所の所在地の法)が最も密接な関係がある地の法と推定されます(同条2項)。
つまり、準拠法を書かずに日本の顧客へサービスを提供すると、提供する側の事業所の所在地の法が推定されることになります。日本の支店や子会社が提供すれば、日本法になる可能性が高くなります。争いになってから決めるのではなく、契約書に明記しておくことが基本です。
裁判管轄の合意は書面で
当事者は、合意により、どの国の裁判所に訴えを提起することができるかを定められます(民事訴訟法3条の7第1項)。この合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、書面でしなければ効力を生じません(同条2項)。電磁的記録で合意した場合は、書面によるものとみなされます(同条3項)。
裁判所ではなく仲裁で解決する方法もあります。仲裁の仕組みと条項の書き方は「国際仲裁の基本」、準拠法・紛争解決条項の全体像は「国際取引の契約書ガイド」で解説しています。
外為法の届出と報告
外国法令に基づいて設立された法人などの「外国投資家」が日本の会社に出資することは、外為法上の「対内直接投資等」にあたることがあります(外国為替及び外国貿易法26条)。このうち、審査が必要となるおそれがあるものとして政令で定めるものは、あらかじめ財務大臣と事業所管大臣に届け出なければなりません(同法27条1項)。事前届出が不要なものでも、事後の報告が求められる場合があります(同法55条の5第1項)。
届出が必要かどうかは、出資先の事業の業種や出資の形で変わります。事前届出をした場合は、届出の受理日から起算して30日を経過する日まで投資を実行できません(同法27条2項)。そのため、子会社の設立や日本企業の買収の日程を組む前に確認しておきます。
業種ごとの許認可
人材紹介、不動産取引、金融、旅行、食品、医療機器など、日本では業種ごとに許可・登録・届出が定められている事業が多くあります。許認可の取得には時間がかかることがあり、取得の主体(支店か子会社か)によって要件が変わることもあります。進出の形を決めるのと同時に、必要な許認可を洗い出します。
経営者の在留資格「経営・管理」
外国籍の社員が日本で会社の経営や管理に従事するには、通常、在留資格「経営・管理」が必要です。この許可基準が改正され、2025年10月16日に施行されました。出入国在留管理庁が示す主な変更は次のとおりです。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 資本金・出資総額 | 500万円 | 3,000万円以上 |
| 雇用 | なし(資本金の代替要件として2人以上の雇用) | 1人以上の常勤職員の雇用が必要(日本人・特別永住者・永住者等に限る) |
| 日本語能力 | なし | 申請者又は常勤職員のいずれかが相当程度の日本語能力(B2相当等)を有すること |
| 経歴・学歴 | なし | 経営・管理経験3年以上、又は関連分野の修士相当以上の学位 |
| 事業計画 | なし | 経営に関する専門的な知識を有する者の確認(上場企業相当規模の場合等を除く) |
改正前から「経営・管理」で在留している人は、施行後3年が経過するまでの間は、新しい基準を満たさないことのみをもって更新が不許可になることはないとされています。
今すぐできること
- 日本で今している活動を書き出し、見積り・契約・代金の受領など「取引の継続」にあたるものがないか確認する。
- 進出の形(駐在員事務所・支店・子会社)を、責任の範囲・運営の手間・将来の計画の3点で比べる。
- 支店を出すなら、日本に住所がある日本における代表者の候補を決める。
- 日本の取引先との契約書の雛形に、準拠法と裁判管轄(又は仲裁)の条項を入れる。管轄の合意は書面か電磁的記録で残す。
- 出資先の業種を前提に、外為法の事前届出・事後報告の要否を確認する。
- 日本に送る経営者の在留資格について、改正後の基準(資本金等・常勤職員・日本語能力・経歴)を満たせるか確認する。
弁護士に相談すべきタイミング
- 登記をしないまま、日本で継続的に契約を結び始めている(又は始める予定がある)。
- 支店と子会社のどちらにするか、税務・責任・許認可の面から比較して決めたい。
- 日本の取引先から日本法・日本の裁判所を前提とした契約書が届き、条項の交渉が必要になった。
- 日本企業への出資や買収を予定しており、外為法の届出の要否と日程を確認したい。
- 経営者の在留資格の申請に合わせて、資本金や雇用の計画を組み直す必要がある。
当事務所は、外国企業の日本進出について、日本語と英語でご相談をお受けしています。お問い合わせページからご連絡ください。
よくあるご質問
駐在員事務所で日本の顧客と契約してもよいですか?
外国会社は、外国会社の登記をするまで、日本で取引を継続してすることができません(会社法818条1項)。違反して取引をした人は、外国会社と連帯して債務を負い、過料の対象にもなります。継続して契約を結ぶ段階になったら、支店の登記か子会社の設立に切り替えます。
支店と子会社では、責任の範囲はどう違いますか?
支店は別法人ではないため、支店の取引で生じた債務は本国の会社の債務になります。子会社は日本の別法人なので、原則として親会社は出資の範囲で責任を負います。日本での事業のリスクを区切りたい場合は、子会社が選ばれることが多いです。
子会社は株式会社と合同会社のどちらがよいですか?
合同会社は社員全員が有限責任で、決算公告の規定がなく、運営が簡素です。株式会社は貸借対照表の公告義務がありますが、日本の取引先や採用市場でなじみがあり、上場や外部からの出資にも向きます。事業の規模と将来の計画で選びます。
契約書に準拠法を書かなかったら、どの国の法律になりますか?
契約の当時に最も密接な関係がある地の法によります(通則法8条1項)。一方だけが特徴的な給付をする契約では、その当事者の事業所の所在地の法と推定されます(同条2項)。予測できるように、契約書に準拠法を明記しておくことをお勧めします。
「経営・管理」の資本金3,000万円は、すでに在留している人にも適用されますか?
改正前から在留している人は、施行後3年が経過するまでの間は、新基準を満たさないことのみをもって更新が不許可になることはないとされています。その後の更新では原則として新基準への適合が求められますが、満たさない場合でも、経営状況や法人税の納付状況などを総合的に考慮して判断するとされています。

