テレワーク(在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイル勤務)でも、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働関係法令は、オフィスでの勤務と同じように適用されます。会社は在宅の社員についても労働時間を把握し、時間外労働には割増賃金を支払い、健康と安全に配慮する必要があります。事業場外みなし労働時間制は、通信機器の扱いと業務指示の内容が一定の条件を満たす場合に限って使えます。就業規則の作成義務がある会社(常時10人以上の労働者を使用する会社)が通信費などを社員に負担させるなら、その内容を就業規則に定めなければなりません(労働基準法89条5号)。
こんな場面で問題になります
- 在宅勤務の社員が夜遅くまでチャットに返信しているが、勤怠の記録は定時で終わっている。
- 「在宅勤務は事業場外みなしだから残業代は出ない」と運用してきたが、社員から未払いだと指摘された。
- 自宅のインターネット代や電気代を誰が負担するか決めないまま、在宅勤務を続けている。
- 在宅勤務中に自宅で転んでけがをした社員から、労災になるのかと聞かれた。
適用される法律はオフィスと同じ
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)は、テレワークを行う場合にも労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働関係法令が適用されることを前提に、会社が注意すべき点を整理しています。
テレワークを行う場所にかかわらず、その社員が所属する事業場がある都道府県の最低賃金が適用されることも、ガイドラインで示されています。
始める前に確認すること
労働条件の明示
会社は、労働契約を結ぶときに就業の場所などを明示する必要があります(労働基準法15条、同法施行規則5条1項1号の3)。ガイドラインは、雇入れ直後からテレワークを行わせることが通常想定される場合は雇入れ直後の就業の場所として、契約期間中にテレワークを行うことが通常想定される場合は変更の範囲として、自宅やサテライトオフィスなどテレワークを行う場所を明示する必要があるとしています。
労働条件の変更
労働契約や就業規則で定めた勤務場所や業務の進め方の範囲を超えてテレワークを命じる場合には、本人の合意を得て労働契約を変更するか、合理的な就業規則の変更と周知によることが必要です(労働契約法8条〜11条)。ガイドラインはこの点に留意するよう求めています。
労働時間の把握
原則は客観的な記録
ガイドラインは、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)を踏まえ、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録で始業・終業の時刻を確認する方法を原則として示しています。サテライトオフィスなら、入退場の記録を使う方法もあります。
自己申告による場合
パソコンの記録が実際の始業・終業を反映しない場合には、社員の自己申告で把握することも考えられます。その場合、ガイドラインは次の措置を求めています。
- 社員と、労働時間を管理する上司に、適正な自己申告について十分に説明する。
- 申告された時間とパソコンの使用状況などに著しい乖離があると分かったら、労働時間を補正する。
- 申告できる時間外労働の時間数に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる措置をとらない。
ガイドラインは乖離の例として、申告された時間以外の時間にメールが送信されている場合や、申告された終業時刻の後も長時間パソコンが起動していた記録がある場合を挙げています。
また、労働安全衛生法は、長時間労働者への医師による面接指導を実施するため、会社に労働者の労働時間の状況の把握を義務づけています(労働安全衛生法66条の8の3)。
中抜け時間
家事や通院などで一時的に仕事から離れる「中抜け時間」について、ガイドラインは、会社が把握することとしても、把握せずに始業・終業の時刻だけを把握することとしても、いずれでもよいとしています。把握する場合は、休憩時間として扱って終業時刻を繰り下げる、時間単位の年次有給休暇として扱うといった方法が示されています。どちらにするかは、あらかじめ就業規則などで定めておくことが重要とされています。
事業場外みなし労働時間制が使える条件
事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事した場合に、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす制度です(労働基準法38条の2第1項)。
ガイドラインは、テレワークで次の①②をいずれも満たす場合に、この制度を適用できるとしています。
- 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
- 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
①について、ガイドラインは、社員が自分の意思で通信回線を切断できる場合や、通信回線は切断できなくても機器から離れることができ、応答のタイミングを社員が判断できる場合、会社支給の携帯電話を持っていても応答するか・いつ折り返すかを社員が判断できる場合は、①を満たすとしています。機器を持っていることだけで適用できなくなるわけではありません。
②について、指示が業務の目的・目標・期限などの基本的事項にとどまり、1日のスケジュールや作業量・方法を具体的に特定していない場合は、②を満たすとされています。
裏を返せば、チャットに即時に応答することが求められていたり、上司が1日の作業内容と時間を細かく指示していたりすれば、制度を使える状態とはいえません。制度を使っている会社は、実際の運用がこの2つの条件に合っているかを点検する必要があります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、就業規則などで始業・終業の時刻を社員の決定に委ね、労使協定で対象となる労働者の範囲、清算期間(3か月以内)、清算期間の総労働時間などを定めて導入する制度です(労働基準法32条の3第1項)。ガイドラインは、テレワークになじみやすい制度としています。
ガイドラインは、在宅勤務の日は労働時間を短くしてオフィス勤務の日に長くする、中抜けした分だけ終業を遅くする、テレワークの日はコアタイムを設けないといった運用が可能であることを示しています。
長時間労働を防ぐ
ガイドラインは、テレワークで長時間労働を防ぐ方法として、次のようなものを挙げています。
- 上司や同僚に、時間外・休日・深夜に業務のメールを送ることの自粛を求める。
- 深夜・休日は、事前に許可を得ない限り社内システムにアクセスできないよう設定する。
- 時間外労働ができる時間帯や時間数をあらかじめ設定し、その手続を就業規則などに明記する。
- 長時間労働が生じるおそれのある社員に、システムで自動的に警告を表示するなどして注意を促す。
通信費・光熱費などの費用負担
ガイドラインは、テレワークによって社員に過度の負担が生じることは望ましくないとし、労使のどちらがどう負担するか、会社が負担する場合の限度額、請求方法などを、あらかじめ労使で話し合って就業規則などに定めておくことが望ましいとしています。
常時10人以上の労働者を使用する会社は就業規則の作成義務があり(労働基準法89条)、労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、その事項を就業規則に定めなければなりません(同条5号)。ガイドラインは、情報通信機器の負担もこれにあたるものとして説明しています。ガイドラインは、通信費や電気料金が増える場合に、業務に要した実費を勤務時間などから合理的・客観的に計算して支給する方法も示しています。在宅勤務の費用負担に関する源泉所得税の扱いは、国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」が参照先として挙げられています。
安全衛生とメンタルヘルス
自宅でのテレワークでも、会社は労働安全衛生法などに基づく措置を講じる必要があります。ガイドラインは、健康相談の体制の整備(同法13条の3)、雇入れ時・作業内容変更時の安全衛生教育(同法59条)、健康診断(同法66条〜66条の7)、長時間労働者への医師による面接指導(同法66条の8・66条の9)、ストレスチェック(同法66条の10)などを挙げています。
自宅には、事務所衛生基準規則などは一般には適用されません。ただし、ガイドラインは、それと同等の作業環境になるよう会社が教育・助言を行い、厚生労働省のチェックリストを使って自宅の作業環境の報告を求めることが重要としています。
使用者は、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとされています(労働契約法5条)。上司や同僚が近くにいないテレワークでは、心身の不調に気づきにくくなります。定期的な面談や相談窓口の周知など、変調に気づける仕組みを作っておきます。
労災の考え方
テレワーク中の災害も、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたものは、業務上の災害として労災保険給付の対象になります。私的な行為など業務以外が原因のものは、業務上の災害とは認められません。
厚生労働省のパンフレットは、自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていた社員が、トイレに行くため離席した後、作業場所に戻って椅子に座ろうとして転倒した事例を、業務行為に付随する行為に起因し、私的行為によるものとも認められないとして、業務災害と認められる例に挙げています。
ガイドラインは、けがをした場合に状況を正確に把握できるよう、労働時間の記録を保存し、災害の発生状況をできる限り記録しておくよう社員に周知することが望ましいとしています。
今すぐできること
- 在宅勤務の社員について、勤怠の記録とパソコンのログ・チャットの送信時刻に大きなずれがないか、直近1か月分を確認する。
- 事業場外みなし労働時間制を使っている場合は、通信機器への応答の求め方と業務指示の細かさが、ガイドラインの2つの条件に合っているか点検する。
- 中抜け時間の扱い(休憩として繰り下げるか、時間単位年休とするか、把握しないか)を就業規則で決める。
- 通信費・光熱費・機器の負担ルールを決め、社員に負担させるものがあれば就業規則に定める。
- 労働条件通知書の就業の場所と変更の範囲に、テレワークを行う場所が入っているか確認する。
- 自宅の作業環境チェックリストを社員に配り、報告を受ける。
- 在宅勤務中のけがや体調不良の連絡方法と、記録の残し方を社員に周知する。
弁護士に相談すべきタイミング
- 在宅勤務の社員や退職者から、未払いの残業代を請求された。
- 事業場外みなし労働時間制が適用できるかどうか、実際の運用に照らして判断がつかない。
- テレワークの導入・廃止に合わせて就業規則を変更したいが、社員の同意が得られるか分からない。
- 在宅勤務中のけがや、長時間労働による不調について、社員から労災や損害賠償の話が出た。
- 海外に住む社員や、国をまたいだリモート勤務の扱いを決めたい。
当事務所では、テレワーク規程の整備や残業代の請求への対応について、日本語と英語でご相談をお受けしています。お問い合わせページからご連絡ください。
よくあるご質問
テレワークでも残業代は必要ですか?
必要です。テレワークでも労働基準法は適用され、法定労働時間を超えた労働には割増賃金を支払う必要があります。事業場外みなし労働時間制は、労働時間を算定し難いことが前提で、通信機器への常時応答を求めず、具体的な業務指示もしていない場合に適用できます。
チャットツールを使っていると、事業場外みなし労働時間制は使えませんか?
チャットを使っていることだけで使えなくなるわけではありません。ガイドラインは、応答するかどうかや応答のタイミングを社員が判断できる場合は、条件を満たすとしています。即時の応答を求めている場合や、1日の作業を細かく指示している場合は使えません。
在宅勤務の通信費・光熱費は会社が負担しなければなりませんか?
法律で一律に決まっているわけではありません。ガイドラインは、負担の方法や限度額を労使で話し合って就業規則などに定めることが望ましいとしています。常時10人以上の労働者を使用する会社が社員に負担させる定めをする場合は、就業規則に定める必要があります(労働基準法89条5号)。
在宅勤務中のけがは労災になりますか?
業務に従事している中で、業務やそれに付随する行為が原因で起きたけがは、業務災害と認められます。厚生労働省は、トイレから戻って椅子に座ろうとして転倒した事例を業務災害の例に挙げています。私的な行為が原因のけがは対象になりません。
テレワークの社員にもストレスチェックは必要ですか?
ストレスチェック(労働安全衛生法66条の10)を含む安全衛生の措置は、テレワークの社員もオフィス勤務の社員と同じく対象になります。ストレスチェックは、産業医の選任義務がない労働者数50人未満の事業場では、当分の間、努力義務とされています(労働安全衛生法附則4条)。ガイドラインは、オンラインで実施することも有効としています。テレワークでは不調に気づきにくいため、相談体制を整えておくことが重要です。

