日本子会社で社員を働かせるには、海外本社のグローバル規程とは別に、日本の労働基準法に沿った就業規則と36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)が必要です。常時10人以上の労働者を使用する会社は就業規則を作って労働基準監督署に届け出なければならず(労働基準法89条)、残業をさせるには36協定の届出が前提です(同法36条1項)。
時間外労働には法律で上限があり、割増賃金の率も決まっています。会社は労働時間の状況を客観的な方法で把握し、年5日の年次有給休暇を確実に取らせる義務も負います。
こんな場面で問題になります
- 日本法人の社員が10人を超えたが、本社のEmployee Handbookしかなく、日本の就業規則を作っていない。
- 36協定を結んだのは設立時の一度だけで、その後更新しているか分からない。
- 本社から「この職位はexemptだから残業代は不要」と言われている。
- 日本の社員の残業時間を、自己申告のスプレッドシートでしか管理していない。
3つの文書の役割を分けて考える
日本の労働時間のルールは、法律・就業規則・労使協定・個々の労働契約が重なって決まります。海外本社に説明するときは、まず次の3つを区別すると伝わりやすくなります。
| 文書 | 何を決めるか | 作る・結ぶ人 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 就業規則 | 始業・終業、休日、賃金、退職・解雇の事由など、職場共通のルール | 会社が作成し、過半数代表者などの意見を聴いて届け出る | 労働基準法89条・90条 |
| 36協定 | 法定の労働時間を超えて、または休日に働かせることができる範囲 | 会社と過半数労働組合または過半数代表者が書面で結び、届け出る | 同法36条1項 |
| 労働契約(雇用契約書) | 個々の社員の賃金・職務・勤務地など | 会社と社員が合意する | 労働契約法、労働基準法15条 |
就業規則:10人以上なら作成と届出が義務
書かなければならない事項
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁(労働基準監督署)に届け出なければなりません。変更したときも同じです(労働基準法89条)。必ず書く事項は、次のとおりです(同条1号〜3号)。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換
- 賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期、昇給
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
退職手当、賞与、安全衛生、表彰・制裁などは、制度を設ける場合に記載します(同条3号の2〜10号)。
作成・変更の手続
就業規則を作成・変更するときは、過半数で組織する労働組合、それがなければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。届出には、その意見を記した書面を添付します(同条2項)。就業規則は、掲示・備付け・書面の交付などの方法で労働者に周知させます(同法106条1項)。
グローバル規程との関係
労働契約を結ぶときに、使用者が合理的な労働条件を定めた就業規則を周知させていれば、労働契約の内容はその就業規則によります。個別に就業規則と異なる条件を合意した部分は、就業規則を下回らない限りその合意によります(労働契約法7条)。就業規則の基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分が無効になり、就業規則の基準によります(同法12条)。
ポイント
就業規則の変更で労働条件を不利益に変える場合は、変更後の就業規則を周知させ、変更が労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的であることが必要です(労働契約法10条)。
36協定:残業をさせる前に結んで届け出る
法定労働時間と36協定
使用者は、休憩時間を除き、1週40時間・1日8時間を超えて労働させてはなりません(労働基準法32条)。毎週少なくとも1回の休日を与える必要があります(同法35条1項)。
これを超えて働かせたり、法定休日に働かせたりするには、過半数労働組合または過半数代表者と書面で協定を結び、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります(同法36条1項、同法施行規則16条1項)。協定の対象期間は1年間に限られます(同法36条2項2号)。
注意
過半数代表者の選び方
過半数代表者は、管理監督者(労働基準法41条2号)でない人で、協定をする者を選ぶことを明らかにして実施される投票・挙手などの方法で選ばれた人でなければなりません。使用者の意向に基づいて選ばれた人は認められません(同法施行規則6条の2第1項)。会社が指名した社員と結んだ協定は、この要件を満たさないおそれがあります。
時間外労働の上限
36協定で定められる時間外労働には上限があります。
| 区分 | 上限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則(限度時間) | 月45時間・年360時間 | 労働基準法36条4項 |
| 特別条項(臨時的な必要がある場合) | 年720時間以内。月45時間を超えられるのは年6か月まで | 同条5項 |
| 実際の時間外+休日労働(1か月) | 100時間未満 | 同条6項2号 |
| 実際の時間外+休日労働(2〜6か月の平均) | 月80時間以内 | 同条6項3号 |
1年単位の変形労働時間制で対象期間が3か月を超える場合は、限度時間は月42時間・年320時間です(同条4項)。特別条項を設ける場合は、限度時間を超えて働かせる社員の健康・福祉を確保する措置や、限度時間を超えた労働の割増賃金の率なども協定で定めます(同法施行規則17条1項)。
重要
36協定を結ぶ流れ
- 1
過半数代表者を選ぶ
管理監督者でない社員の中から、投票や挙手で選んでもらいます(施行規則6条の2)
- 2
協定の内容を決める
対象の社員の範囲、対象期間(1年)、時間外労働をさせる場合、1日・1か月・1年の上限時間を定めます(36条2項)
- 3
様式第9号で届け出る
特別条項がある場合は様式第9号の2で、所轄労働基準監督署長に届け出ます(施行規則16条1項)
- 4
社員に周知する
掲示・備付け・書面の交付などで周知させます(106条1項)
- 5
毎月の時間を確認する
実際の時間外・休日労働が上限を超えていないかを、社員ごとに確認します(36条6項)
割増賃金:時間外・休日・深夜で率が違う
36協定に基づいて時間外・休日に働かせた場合は、割増賃金を支払います(労働基準法37条1項)。率は政令で、時間外労働が2割5分、休日労働が3割5分と定められています(割増賃金率の最低限度を定める政令)。
| 区分 | 割増率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 25%以上 | 労働基準法37条1項、政令 |
| 1か月60時間を超える時間外労働 | 50%以上 | 同条1項ただし書 |
| 休日労働 | 35%以上 | 同条1項、政令 |
| 深夜労働(午後10時〜午前5時) | 25%以上 | 同条4項 |
割増賃金の計算の基礎には、家族手当・通勤手当などは算入しません(同条5項)。
「exempt」は日本ではそのまま通用しない
海外では、職位や年収で残業代の対象外(exempt)とする制度があります。日本の労働基準法で労働時間・休憩・休日の規定が適用されないのは、「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」などに限られます(同法41条2号)。
役職名や年収だけで当たるとは限らないため、本社がexemptとしている職位を日本でも残業代の対象外とするかは、職務の実態を見て慎重に判断する必要があります。始業・終業を社員に委ねるフレックスタイム制(同法32条の3)や、専門業務型の裁量労働制(同法38条の3)も、労使協定などの要件を満たして初めて使える制度です。
労働時間の把握と年5日の年次有給休暇
労働時間の状況を客観的に把握する
事業者は、医師による面接指導を実施するため、労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません(労働安全衛生法66条の8の3)。方法は、タイムカードによる記録、パソコンなどの使用時間の記録などの客観的な方法その他の適切な方法とされ、記録は3年間保存します(労働安全衛生規則52条の7の3)。
年5日の時季指定
使用者は、年10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者に対し、そのうち5日について、基準日から1年以内に、労働者ごとに時季を定めて与えなければなりません(労働基準法39条7項)。労働者が自ら取得した日数や計画的付与の日数は、その分を差し引けます(同条8項)。
会社は、時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした年次有給休暇管理簿を作り、保存します(同法施行規則24条の7)。海外本社のPTO(Paid Time Off)制度を使う場合も、日本の法定の日数と年5日の取得が確保されているかを確かめます。
海外本社に説明するときのポイント
外国法を準拠法とする雇用契約でも、日本で働く社員が、最も密接な関係がある地の法の特定の強行規定を適用すべき旨を使用者に示せば、その強行規定も適用されます(法の適用に関する通則法12条1項)。労務を提供すべき地の法が、最も密接な関係がある地の法と推定されます(同条2項)。準拠法を外国法にしても、日本の労働法のルールを避けられるとは限りません。
本社への説明では、次の点を押さえておくと誤解を防げます。
- 日本では、残業をさせるには事前の36協定の届出が必要で、上限時間も法律で決まっている。
- 年次有給休暇のうち5日は、社員が申し出なくても会社が時季を指定して取らせる義務がある。
- 就業規則は届出が必要な法定の文書で、グローバル規程を翻訳しただけでは足りない。
- 労働条件を不利益に変更するには、合理性などの要件がある(労働契約法10条)。
解雇のルールは日本で社員を解雇するときのコラム、外国人社員の採用は外国人を雇うときのチェックリスト、在宅勤務の時間管理はテレワークの労務管理のコラムで解説しています。
今すぐできること
- 日本法人の事業場ごとの労働者数を確認し、10人以上なら就業規則の作成・届出の有無を確かめる。
- 36協定の写しを探し、対象期間が切れていないか、届出の控えがあるかを確認する。
- 過半数代表者が、投票や挙手などで選ばれた管理監督者でない社員かを確かめる。
- 社員ごとの毎月の時間外・休日労働の時間を集計し、月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内に収まっているかを見る。
- 勤怠を、タイムカードやパソコンのログなどの客観的な記録で把握できる仕組みにする。
- 年次有給休暇管理簿を作り、年5日の取得が見込めない社員に時季を指定する。
弁護士に相談すべきタイミング
- 労働基準監督署から調査の連絡や是正勧告を受けた。
- 退職した社員や在職中の社員から、未払いの残業代を書面で請求された。
- 本社のHandbookと日本の就業規則を統合したい、または労働条件を不利益に変えたい。
- exemptとして扱ってきた職位に、残業代を支払う必要があるか判断したい。
当事務所は、海外企業の日本子会社の就業規則・36協定の整備や、本社への説明資料の作成をお手伝いしています。国際案件の取扱いもご覧ください。

FREE CONSULTATION
労働問題のご相談は、初回30分無料です
- ・日本・ニューヨーク州の弁護士 阿部祐介が担当します
- ・オンライン(Zoom等)・来所(東京・大手町)どちらも可
- ・日本語・英語のどちらでもご相談いただけます
