フリーランスに仕事を発注する会社は、発注したらすぐに取引条件を書面やメールで示し、給付を受け取った日から60日以内に報酬を支払わなければなりません。これは2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律。以下「フリーランス法」)のルールです。
1か月以上の委託では報酬の減額や買いたたきなどが禁止され、6か月以上の委託を打ち切るときは原則として30日前までの予告が必要です。ハラスメントの相談体制は、委託の期間にかかわらず整えておく必要があります。
こんな場面で問題になります
- エンジニアやデザイナーに、Slackのやり取りだけで仕事を頼んでいて、条件を書いた書面がない。
- 月末締め・翌々月末払いの社内ルールを、個人の外注先にもそのまま当てはめている。
- 1年続けてきた外注先との契約を、来月で終わりにしたい。
- 海外本社の英文の業務委託契約書(Service Agreement)を、日本の個人の外注先にも使っている。
対象になるのは「従業員のいない」相手との取引
フリーランス法で保護されるのは「特定受託事業者」です。業務委託の相手方である事業者のうち、次のどちらかに当たるものをいいます(2条1項)。
| 区分 | 特定受託事業者に当たる相手 |
|---|---|
| 個人 | 従業員を使用しない個人 |
| 法人 | 代表者1人のほかに役員がなく、かつ従業員を使用しない法人 |
いわゆる一人会社でも、代表者のほかに取締役や監査役がいれば対象外です。「業務委託」には、物品の製造・加工、プログラムやデザインなどの情報成果物の作成、役務の提供の委託が含まれます(2条3項・4項)。
発注する側は2つに分かれます。特定受託事業者に業務委託をする事業者が「業務委託事業者」です(2条5項)。そのうち、従業員を使用する個人や、役員が2人以上いるか従業員を使用する法人が「特定業務委託事業者」です(2条6項)。一般的な会社は、特定業務委託事業者に当たります。
会社が負う義務の一覧
義務によって、かかる発注者と委託の期間が違います。
| 義務 | かかる発注者 | 委託の期間 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 取引条件の明示 | 業務委託事業者(従業員のいない発注者も含む) | 期間を問わない | 3条 |
| 60日以内の支払期日 | 特定業務委託事業者 | 期間を問わない | 4条 |
| 受領拒否・減額・返品・買いたたき・購入強制の禁止 | 特定業務委託事業者 | 1か月以上 | 5条1項、施行令1条 |
| 経済上の利益の提供要請・不当な変更ややり直しの禁止 | 特定業務委託事業者 | 1か月以上 | 5条2項 |
| 募集情報を正確に表示する | 特定業務委託事業者 | 期間を問わない | 12条 |
| 妊娠・出産・育児・介護への配慮 | 特定業務委託事業者 | 6か月以上は義務、それ以外は努力義務 | 13条、施行令3条 |
| ハラスメントの相談体制の整備 | 特定業務委託事業者 | 期間を問わない | 14条 |
| 解除・不更新の30日前予告 | 特定業務委託事業者 | 6か月以上 | 16条、施行令3条 |
発注したら、直ちに条件を示す(3条)
業務委託事業者は、業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを、書面または電磁的方法で示さなければなりません(3条1項)。示す事項は公正取引委員会の規則で決まっています(公正取引委員会関係規則1条1項)。
- 発注者と受注者の名称など
- 業務委託をした日
- 給付(役務)の内容
- 給付を受け取る期日と場所
- 検査をする場合は、検査を完了する期日
- 報酬の額と支払期日
内容が決まっていないことに正当な理由がある事項は、決まった後に直ちに示せば足ります(3条1項ただし書)。メールなどで示した後に、相手から書面を求められたときは、原則として遅滞なく交付します(3条2項)。
ポイント
支払期日は、受け取った日から60日以内(4条)
特定業務委託事業者は、給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません(4条1項)。検査をするかどうかは関係ありません。役務の提供の場合は、役務の提供を受けた日から数えます。
重要
元請から受けた仕事をフリーランスに再委託する場合は、再委託であることや元委託の支払期日などを示していれば、元委託の支払期日から30日以内で支払期日を定めることができます(4条3項)。
1か月以上の委託で禁止されること(5条)
特定業務委託事業者が1か月以上の期間で業務委託をした場合は、次の行為が禁止されます(5条1項、施行令1条)。契約の更新により1か月以上続くことになる場合も含みます。
- 相手に責任がないのに、給付の受領を拒むこと
- 相手に責任がないのに、報酬の額を減らすこと
- 相手に責任がないのに、受け取った後で引き取らせること(返品)
- 通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を、不当に定めること(買いたたき)
- 正当な理由なく、自社の指定する物の購入や役務の利用を強制すること
自社のために金銭や役務などの経済上の利益を提供させることや、相手に責任がないのに給付の内容を変更させ、やり直させることで、相手の利益を不当に害することも禁止されます(5条2項)。役務の提供の委託では、受領拒否と返品は対象外です(5条1項柱書)。
注意
就業環境についての義務(12条〜16条)
募集情報は正確に
広告などでフリーランスを募集するときは、業務の内容・報酬・契約の解除などについて、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確で最新の内容に保ちます(12条、施行令2条)。
育児・介護への配慮
6か月以上の継続的業務委託では、相手からの申出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と両立して業務に従事できるよう必要な配慮をしなければなりません(13条1項、施行令3条)。それ以外の業務委託では、配慮に努めることが求められます(13条2項)。
ハラスメントの相談体制
特定業務委託事業者は、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産に関するハラスメント、取引上の優越的な関係を背景とした言動(パワーハラスメントに当たるもの)について、相談に応じ適切に対応するための体制を整えるなどの措置を講じなければなりません(14条1項)。相談したことなどを理由に、契約の解除などの不利益な取扱いをしてはいけません(14条2項)。
解除・不更新の30日前予告
6か月以上の継続的業務委託を解除するとき、または期間満了後に更新しないときは、少なくとも30日前までに予告しなければなりません(16条1項)。予告は、書面、ファクシミリ、電子メール等のいずれかで行います(厚生労働省関係規則3条)。
災害などで予告が難しい場合や、相手の責めに帰すべき事由で直ちに解除する必要がある場合などは、例外とされています(厚生労働省関係規則4条)。予告の後、相手から解除の理由を求められたら、原則として遅滞なく開示します(16条2項)。
発注から終了までの流れ
- 1
相手が対象か確かめる
従業員や他の役員がいない個人・法人かを、発注前に確認します(2条1項)
- 2
発注したら直ちに条件を示す
給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面かメールで示します(3条1項)
- 3
給付を受け取った日を記録する
支払期日は受領日から数えるため、納品日・役務の提供日を残します(4条1項)
- 4
60日以内に支払う
定めた支払期日までに支払います。1か月以上の委託では、相手に責任がないのに減額することは禁止です(4条5項・5条1項2号)
- 5
終了の30日前までに予告する
6か月以上の委託を解除・不更新にするときは、書面やメールで予告します(16条1項)
違反したときの扱い
取引条件の明示や支払期日、禁止行為の違反は、公正取引委員会の勧告の対象です(8条)。募集情報・ハラスメント対策・解除の予告などは、厚生労働大臣の勧告の対象です(18条)。
勧告に正当な理由なく従わないと、命令を受け、その旨が公表されることがあります(9条・19条1項・2項)。ハラスメント対策(14条)の勧告に従わない場合は、命令ではなく、その旨が公表されることがあります(19条3項)。命令に違反したときや、報告・検査を拒んだときは、50万円以下の罰金です(24条)。従業者が違反したときは、会社にも罰金が科されます(25条)。
取適法(旧下請法)との関係
資本金の区分などで取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。2026年1月1日に下請法から題名が改められた)の対象にもなる取引では、両方の法律のルールを確認する必要があります。フリーランス法は、資本金の要件がなく、発注者の規模にかかわらず適用される点が異なります。
海外本社の書式を使う会社の注意点
外資系の日本法人が、海外本社の英文のService Agreementを日本の個人の外注先に使う場合も、明示すべき事項(公正取引委員会関係規則1条1項)が入っているかを確かめます。特に、支払条件が「請求書受領後60日」などとなっていると、給付の受領日から数えると60日を超えることがあります。
解除条項が「いつでも通知により解除できる」となっていても、6か月以上の継続的業務委託であれば、30日前の予告が必要です。日本での事業運営全般については、外国企業の日本進出と準拠法のコラムもご覧ください。
今すぐできること
- 外注先の一覧を作り、従業員や他の役員がいない相手(特定受託事業者)を洗い出す。
- 発注書・基本契約書のひな形に、規則で定める明示事項がすべて入っているかを確認する。
- 支払サイトを見直し、受領日から60日以内に支払えるかを確かめる。
- 振込手数料を相手負担にしている場合は、合意の有無と報酬からの差引きの扱いを確認する。
- 6か月以上続いている委託を洗い出し、終了時の予告の手順を決めておく。
- 社員向けのハラスメント相談窓口を、フリーランスも使えるようにし、そのことを伝える。
弁護士に相談すべきタイミング
- 公正取引委員会や厚生労働省(都道府県労働局)から、報告の求めや調査の連絡が来た。
- フリーランスから、報酬の減額や契約の打切りについて書面で抗議を受けた。
- 海外本社の契約書式を日本向けに直したいが、どこまで変えるべきか分からない。
- 長く続いた外注先との契約を、近く終了させる予定がある。
当事務所では、日本法人の契約書式の見直しや、外注先とのトラブルへの対応をお手伝いしています。企業法務の取扱いもご覧ください。

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