企業法務弁護士監修済
Q.取締役は個人として損害賠償責任を負いますか?会社に対する責任・取引先など第三者に対する責任と、責任を軽くする仕組みを経営者向けに解説
A.
取締役は任務を怠って会社に損害を与えると個人で賠償責任を負い(会社法423条1項)、悪意・重過失があれば取引先など第三者にも責任を負います(会社法429条1項)。株主代表訴訟で追及されることもあります。一部免除や責任限定契約、D&O保険などで責任を軽くする仕組みもあります。
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取締役は、任務を怠って会社に損害を与えたとき、個人として会社に賠償する責任を負います(会社法423条1項)。職務について悪意または重大な過失があったときは、取引先や債権者など第三者に対しても直接責任を負います(会社法429条1項)。会社が責任を追及しない場合でも、株主が会社に代わって訴えを起こせます(会社法847条)。一方で、責任の一部免除、責任限定契約、会社による補償、役員賠償責任保険(D&O保険)といった、責任を軽くする仕組みも会社法に用意されています。
こんな場面で問題になります
・取締役会で承認した大型投資が失敗し、株主から「取締役の判断ミスだ」と責任を問われている。
・代表取締役が、自分が代表を務める別の会社と、取締役会の承認なしに取引していた。
・会社が倒産し、未払いの取引先から取締役個人に支払を求める書面が届いた。
・海外の親会社から日本子会社の取締役に就任したが、親会社の指示と日本の会社の利益がぶつかっている。
1. 取締役が負う2つの基本的な義務
会社と取締役の関係は、委任に関する規定に従います(会社法330条)。そのため取締役は、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)を負います(民法644条)。これは、その地位にある人に通常求められる注意を尽くす義務です。
あわせて取締役は、法令・定款・株主総会の決議を守り、会社のため忠実に職務を行わなければなりません(会社法355条、忠実義務)。ここでいう「会社」は、その取締役が就任している会社です。海外の親会社から派遣された取締役でも、義務を負う相手は日本の子会社である点に注意が必要です。
2. 会社に対する責任(任務懈怠責任)
取締役が任務を怠ったとき(任務懈怠)は、会社に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。法令違反、取締役会決議を経ない重要な取引、監視・監督の不足などが問題になりやすい場面です。
競業取引と利益相反取引には、特別のルールがあります。取締役が会社と同じ種類の事業の取引をするとき(競業取引)や、会社と取引をするとき(利益相反取引)は、重要な事実を開示して株主総会の承認を受けなければなりません(会社法356条1項)。取締役会設置会社では、承認するのは取締役会です(会社法365条1項)。取引の後には、遅滞なく取締役会に重要な事実を報告する必要があります(同条2項)。
承認を受けずに競業取引をしたときは、その取引で取締役や第三者が得た利益の額が、会社の損害の額と推定されます(会社法423条2項)。利益相反取引で会社に損害が生じたときは、取引をした取締役や、取引を決めた取締役、取締役会で賛成した取締役は、任務を怠ったものと推定されます(同条3項)。さらに、取締役が自分のために会社と直接取引をした場合は、自分に落ち度がなかったことを理由に責任を免れることができません(会社法428条1項)。
違法な配当にも注意が必要です。分配可能額を超えて剰余金を配当した場合、その職務を行った業務執行者などは、会社に対して連帯して、交付された金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条1項)。
3. 株主による責任追及(株主代表訴訟)
会社が取締役の責任を追及しない場合、株主はまず会社に対して、責任追及の訴えを起こすよう書面などで請求できます(会社法847条1項)。公開会社では6か月(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)前から引き続き株式を持つ株主に限られますが、公開会社でない会社では保有期間の要件はありません(同条2項)。
会社が請求の日から60日以内に訴えを起こさないときは、請求した株主が会社のために訴えを起こせます(同条3項)。60日を待つと会社に回復できない損害が生じるおそれがある場合は、直ちに訴えを起こすこともできます(同条5項)。
4. 取引先など第三者に対する責任
取締役が職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、それによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項)。会社が倒産したとき、取引先や債権者が取締役個人に請求する根拠として使われる規定です。
また、計算書類や事業報告の重要な事項に虚偽の記載をした場合、虚偽の登記や公告をした場合なども、同様の責任を負います(同条2項1号)。この場合は、取締役の側が「注意を怠らなかったこと」を証明しない限り責任を免れません(同項ただし書)。
5. 刑事責任
取締役が自分や第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を加えたときは、特別背任罪として10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方に処せられます(会社法960条1項)。
6. 責任を軽くする仕組み
会社に対する責任は、総株主の同意があれば全部免除できます(会社法424条)。それ以外にも、取締役が善意で重大な過失がないときは、次の方法で一部を免除・限定できます。
・株主総会の決議による一部免除(会社法425条1項)。ただし、報酬等の1年あたりの額に、代表取締役は6、業務執行取締役等は4、それ以外の取締役は2を掛けた額(最低責任限度額)は免除できません。
・定款の定めに基づく取締役会決議などによる一部免除(会社法426条1項)。監査役設置会社(取締役が2人以上の場合)、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社で使えます。
・社外取締役など業務を執行しない取締役との責任限定契約(会社法427条1項)。
さらに会社は、取締役が責任追及を受けたときの防御費用などを補償する契約(補償契約、会社法430条の2)や、取締役を被保険者とする役員賠償責任保険(会社法430条の3)を結べます。取締役会設置会社では、いずれも内容の決定に取締役会の決議が必要です。
7. よくある失敗
・取締役会の承認を経ずに、役員本人や、役員が代表を務める会社と取引してしまう。
・取締役会の議事録に、検討した資料や反対意見が残っていない。
・名前だけの取締役として、業務執行を全く監視していない。
・D&O保険に入っているから大丈夫と考え、補償の範囲や免責事由を確認していない。
今すぐできること
・自社の取締役と会社の取引(役員本人との取引、役員が代表を務める会社との取引、会社が役員の債務を保証する取引など)を洗い出し、承認と報告の記録があるか確認する。
・重要な投資・取引について、取締役会の資料と議事録に検討の経過が残っているか確認する。
・定款に、責任の一部免除(会社法426条)や責任限定契約(会社法427条)の定めがあるか確認する。
・D&O保険の被保険者、補償範囲、免責事由を確認する。
・海外の親会社から派遣された取締役には、日本の会社に対する義務の内容を就任時に説明する。
弁護士に相談すべきタイミング
・株主から、取締役の責任追及の訴えを起こすよう求める書面が届いた。
・会社の倒産や支払停止を受けて、取引先から取締役個人に請求が来た。
・承認を得ていない役員との取引が見つかった。
・親会社の指示に従うと、日本の子会社に損害が出るおそれがある。
早い段階で記録を整理し、承認や開示の手続を補えるかを検討しておくことが、その後の対応を左右します。
よくあるご質問
Q. 経営判断が結果的に失敗した場合も、責任を負いますか?
責任を負うのは、任務を怠ったとき、つまり善管注意義務や忠実義務に違反したときです(会社法423条1項)。結果が悪かったことだけで責任が決まるわけではなく、どのような情報をもとに、どのように検討して判断したかが問われます。検討の経過を資料と議事録に残しておくことが大切です。
Q. 社外取締役や名前だけの取締役も責任を負いますか?
取締役である以上、善管注意義務と忠実義務を負います。業務を執行しない取締役は、定款の定めがあれば責任限定契約を結べます(会社法427条1項)。ただし、悪意または重大な過失がある場合は、責任は限定されません。
Q. 取締役を辞めれば責任はなくなりますか?
在任中の任務懈怠によって生じた責任は、辞任によって当然に消えるものではありません。会社に対する責任を免除するには、総株主の同意(会社法424条)や、会社法425条〜427条の手続が必要です。
Q. 外国の親会社の指示に従っただけでも責任を負いますか?
日本の子会社の取締役が忠実義務を負う相手は、その日本の会社です(会社法355条)。親会社の指示であっても、日本の会社の利益を害する内容であれば、任務懈怠の責任を問われるおそれがあります。指示の内容と、日本の会社にとっての利害を記録に残して検討してください。
Q. 取締役会のない会社でも、役員との取引に承認は必要ですか?
必要です。取締役会を置いていない会社では、取締役が会社と取引をするときや、会社と同じ種類の事業の取引をするときは、重要な事実を開示して株主総会の承認を受けなければなりません(会社法356条1項)。株主が少ない会社でも、承認の手続と記録を省かないことが大切です。
Q. 第三者に対する責任は、会社が倒産していなくても問われますか?
会社法429条1項は、会社の倒産を要件にしていません。取締役が職務について悪意または重大な過失があり、それによって第三者に損害が生じれば、責任を問われる可能性があります。会社から支払を受けられない債権者が、取締役個人に請求するときの根拠となる規定です。
Q. D&O保険があれば、個人で払うことはありませんか?
会社法は、会社が役員賠償責任保険を結ぶ手続を定めています(会社法430条の3)。補償の上限や、補償の対象外となる場合(免責事由)は保険契約の内容で決まるため、契約を個別に確認する必要があります。
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