企業法務弁護士監修済
Q.株主間契約(SHA)に法的拘束力はありますか?効力が及ぶ範囲と、定款に入れるべき条項の見分け方
A.
株主間契約は契約した株主の間では有効ですが、契約に加わっていない株主や会社には効力が及びません。守られないと困る取り決めは定款にも定めます。
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株主間契約(SHA:株主どうしが会社の運営や株式の扱いについて結ぶ契約)は、契約を結んだ株主の間では法的拘束力があります(民法521条2項)。ただし、効力が及ぶのは原則として契約の当事者だけで、契約に加わっていない株主や、新しく株主になった人には及びません。会社が当事者になっていなければ、会社自身も契約に縛られません。株式の譲渡制限や取締役の選任など、守られないと困る取り決めは、株主間契約だけでなく定款にも定めておくことが重要です。
こんな場面で問題になります
・共同創業者と株主間契約を結んだが、相手が契約に反する議決権の使い方をしてきた。
・投資家から株主間契約の案が届き、どの条項を受け入れてよいか判断がつかない。
・合弁会社の相手方株主が、事前の同意なく第三者に株式を売ろうとしている。
・退任した共同創業者が株式を持ったまま会社を去り、買い取りの条件で揉めている。
1. 株主間契約が当事者を拘束する理由
契約の当事者は、法令の制限内で契約の内容を自由に決めることができます(民法521条2項)。契約は書面がなくても成立しますが(民法522条2項)、株主間契約は内容が複雑で長期間続くため、書面にするのが通常です。
株主間契約によく入る条項は、次のようなものです。
・議決権の行使に関する合意(特定の議案に賛成する、事前に協議する等)
・株式を売るときの先買権(他の株主が先に買える権利)
・タグ・アロング(大株主が売るとき、少数株主も同じ条件で売れる権利)
・ドラッグ・アロング(大株主が売るとき、少数株主にも一緒に売らせる権利)
・取締役の指名権
・重要事項についての拒否権・事前承認
・情報の提供、競業の禁止
・デッドロック(意見が割れて何も決められない状態)の解消方法
これらは当事者の間では有効な約束です。ただし、公の秩序や善良の風俗に反する内容は無効になります(民法90条)。会社法の規定に正面から反する約束も、その効力が問題になります。
2. 効力は「当事者の間」にとどまります
株主間契約は、あくまで株主どうしの約束です。会社法上の手続き(株主総会の決議、株式の譲渡、取締役の選任)とは別の層にあります。
たとえば、ある株主が契約に反して議案に反対したとします。契約違反の責任(損害賠償など)は相手方株主に追及できます。しかし、株主総会の決議は会社法の手続きで成立するため、契約違反だけを理由に決議を覆すことは難しいと考えられています。
同じことが株式の譲渡にもいえます。株主は原則として株式を自由に譲渡できます(会社法127条)。株主間契約で「第三者に売らない」と約束しても、それだけでは買い手に対抗しにくい場面があります。また、契約に加わっていない新しい株主には、契約の内容は及びません。
3. 定款に入れると会社と全株主に効力が及びます
株式会社の定款には、会社法に違反しない事項を記載できます(会社法29条)。定款は会社と全株主を拘束するため、守られないと困る事項は定款にも定めることが考えられます。代表的なものは次のとおりです。
・株式の譲渡制限:株式の譲渡に会社の承認が必要とする定め(会社法107条1項1号)。承認の可否は、定款に別段の定めがなければ株主総会(取締役会設置会社では取締役会)が決めます(会社法139条1項)。
・拒否権付種類株式:株主総会などの決議に加え、その種類株主の総会の決議も必要とする株式(会社法108条1項8号)。
・役員選任権付種類株式:種類株主の総会で取締役や監査役を選任できる株式(会社法108条1項9号)。公開会社と指名委員会等設置会社は発行できません(同項ただし書)。
・属人的な定め:公開会社でない会社は、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権について、株主ごとに異なる扱いを定款で定めることができます(会社法109条2項)。
定款を変えるには株主総会の決議が必要で(会社法466条)、原則として特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)になります(会社法309条2項11号)。定款と株主間契約の内容が食い違うと、どちらが優先するかで争いになります。両方を作るときは、同じ内容になっているか必ず照らし合わせます。
4. 契約違反に備えて、契約書で決めておくこと
株主間契約の違反は、最終的には損害賠償の問題になりがちです。しかし、会社の支配をめぐる違反では損害額を示しにくいことがあります。そのため、契約書の中で次の点を決めておくことが重要です。
・違反があったときの株式の買取り(コール・オプション)と、その価格の決め方
・違約金の額
・紛争の解決方法(裁判所、仲裁、準拠法)
・契約の終了事由(上場、株式の全部売却、当事者の脱退など)
5. 実務での注意点
・会社を当事者に入れるか:会社も契約に加えると、情報提供や事前承認の義務を会社に負わせることができます。ただし、取締役の義務と矛盾しない内容かを確認します。
・新しい株主の加入:増資や株式の譲渡のときに、新しい株主にも契約に加わってもらう条項(加入合意書の提出等)を置きます。
・創業者の退任:退任時に株式をいくらで誰が買い取るかを決めていないと、争いが長引きます。
・英文契約:海外投資家との契約は英語で作られることが多く、日本の会社法と合わない条項が入っていることがあります。定款や種類株式の設計とあわせて確認します。
6. 場面ごとに重くなる条項は違います
株主間契約は、誰と誰が結ぶかで中心になる条項が変わります。
・共同創業者どうし:退任時の株式の扱いが最も重要です。一定期間在籍しないと株式を手放す仕組み(ベスティング)や、退任時の買取価格の算定方法を決めます。持株比率が同じ場合は、デッドロックの解消方法も欠かせません。
・投資家との契約:投資家側は、重要事項の事前承認、情報の提供、取締役の指名、ドラッグ・アロングを求めることが多いです。会社側は、事前承認の対象が日常の経営判断まで広がっていないかを確認します。
・合弁会社:出資比率に応じた取締役の指名権、重要事項の拒否権、デッドロックの解消方法、合弁の解消時に株式をどう買い取るかが中心になります。
7. デッドロックへの備え
持株比率が50対50の会社では、株主総会で過半数がとれず、取締役の選任も重要な決定もできなくなるおそれがあります。株主間契約では、次のような解消方法を決めておきます。
・代表者どうしの協議期間を定め、それでも決まらなければ次の段階に進む。
・一方が提示した価格で、相手が「買う」か「売る」かを選ぶ方法。
・第三者による評価額での買取り。
・最終的に会社を解散する。
どの方法を選ぶかで、資金力のある側とない側の有利不利が変わります。自社の立場に合った方法を選ぶことが大切です。
今すぐできること
1. 自社の株主間契約と定款を並べ、譲渡制限・役員の選任・拒否権の内容が一致しているか確認する。
2. 契約の当事者に、現在の株主全員が入っているか確認する。
3. 増資や株式譲渡のときに、新しい株主を契約に加える手続きが定められているか確認する。
4. 違反時の買取り条項と、その価格の算定方法が定められているか確認する。
5. 創業者や役員が退任したときの株式の扱いを決めておく。
6. 紛争解決の方法(裁判所か仲裁か、どの国の法律か)を確認する。
弁護士に相談すべきタイミング
・投資家や合弁相手から株主間契約の案を受け取り、署名を求められたとき。
・他の株主が契約に反する議決権行使や株式譲渡をしようとしているとき。
・共同創業者の退任や対立で、株式の買取り条件を話し合う必要が出たとき。
・種類株式の発行や定款変更を検討しているとき。
よくあるご質問
Q. 株主間契約に違反して議決権を行使された場合、株主総会の決議は無効になりますか?
株主総会の決議は会社法の手続きで成立するため、契約違反だけを理由に決議を覆すことは難しいと考えられています。違反した株主に対しては、契約に基づく損害賠償や買取りを求めることになります。重要な事項は、拒否権付種類株式などで定款にも定めておくことが考えられます。
Q. 株主間契約は新しく株主になった人にも効力がありますか?
原則としてありません。契約の当事者でないからです。新しい株主に契約に加わってもらう手続きを契約書に定めておく必要があります。
Q. 株主間契約と定款のどちらに書けばよいですか?
会社と全株主を拘束したい事項(譲渡制限、役員の選任、拒否権など)は定款にも定めます。定款に書けない事項や、当事者の間だけで決めたい事項(買取価格の算定方法、競業禁止など)は株主間契約に書きます。両方に書く場合は内容を一致させます。
Q. 株主間契約は書面にしないと無効ですか?
契約は書面がなくても成立します(民法522条2項)。ただし、株主間契約は内容が複雑で長く続くため、書面にしないと後で内容を証明できません。必ず書面で作り、当事者全員が署名します。
Q. 種類株式は、どの会社でも発行できますか?
内容の異なる種類の株式を発行するには、その内容と発行可能種類株式総数を定款で定める必要があります(会社法108条2項)。役員選任権付種類株式は、公開会社と指名委員会等設置会社は発行できません(同条1項ただし書)。定款変更には株主総会の特別決議が必要なため、株主の構成を踏まえて準備します。
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