企業法務

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企業法務の法律知識を解説。会社設立、契約書作成・レビュー、取締役の責任、コンプライアンス体制構築、M&A・事業承継、知的財産保護の実務を、会社法・下請法等の条文に基づいて説明します。

会社設立

株式会社と合同会社の2つの法人形態から選んで設立します。

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日本で法人を設立する場合、主に株式会社と合同会社の2つの選択肢があります。

株式会社(会社法25条以下): 最も一般的な法人形態です。資本金1円から設立可能。定款を作成し公証人役場で認証(5万円)を受けた後、法務局で設立登記(登録免許税15万円)を行います。電子定款にすれば印紙代4万円を節約でき、設立費用の総額は約21〜25万円程度です。取締役会の設置は任意(非公開会社の場合)で、取締役1名でも設立可能です。

合同会社(LLC)(会社法575条以下): 定款認証が不要で設立費用が安く(約6〜10万円)、意思決定が迅速です。社員(出資者)が有限責任を負いつつ、定款自治の範囲が広い点が特徴です。外資系企業の日本法人(Apple Japan、Google Japan等)にも多く採用されています。

設立後の届出: 税務署への法人設立届出書、都道府県税事務所・市区町村への届出、年金事務所への社会保険加入手続き等が必要です。

契約書作成の重要ポイント

紛争を防ぐために業務範囲・支払条件・知的財産の帰属などを明記します。

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企業間取引において、契約書は紛争予防の最も重要なツールです。以下の条項には特に注意が必要です。

1. 目的物・業務範囲の明確化: 曖昧な記載は紛争の最大の原因です。成果物の仕様、納品条件、検収基準を具体的に定めます。

2. 代金・支払条件: 支払金額、支払時期、支払方法、遅延損害金の利率(法定利率は年3%、民法404条)を明記します。下請法適用取引では支払期日は受領日から60日以内(下請法2条の2)

3. 契約不適合責任(民法562条以下): 目的物が契約内容に適合しない場合の修補請求、代金減額請求、損害賠償、解除の範囲と期間を定めます。

4. 知的財産権の帰属: 特に業務委託契約では、成果物の著作権、特許を受ける権利等の帰属先を明確にします。著作権法27条・28条の権利も含めて譲渡する旨を記載しないと、翻案権等は移転しません(著作権法61条2項)

5. 秘密保持条項(NDA): 秘密情報の定義、目的外使用の禁止、義務期間(通常3〜5年)、例外事由を定めます。

6. 解除条件: 債務不履行解除(民法541条)に加え、反社会的勢力の排除条項、支払停止・破産等の事由を定めます。

7. 紛争解決: 管轄裁判所(合意管轄、民訴法11条)または仲裁(仲裁法)を定めます。国際取引では準拠法の指定も重要です。

取締役の責任

取締役は会社や第三者に対して損害賠償責任を負う場合があります。

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取締役は会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)と忠実義務(会社法355条)を負います。

対会社責任(会社法423条): 任務を怠ったことにより会社に損害を生じさせた場合、損害賠償責任を負います。経営判断の原則(Business Judgment Rule)により、合理的な情報収集と判断過程を経た経営判断は、結果的に損害が生じても責任を問われない場合があります。

対第三者責任(会社法429条): 取締役がその職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合、第三者に対しても損害賠償責任を負います。債務超過を知りながら取引を継続した場合等が典型例です。

株主代表訴訟(会社法847条): 6ヶ月以上継続して株式を保有する株主は、会社に代わって取締役の責任を追及する訴訟を提起できます。

責任の免除・限定: 総株主の同意による免除(会社法424条)、株主総会決議による一部免除(会社法425条)、社外取締役等の責任限定契約(会社法427条)等の制度があります。D&O保険(役員賠償責任保険、会社法430条の3)の加入も一般的です。

コンプライアンス体制

内部統制・通報体制・個人情報保護など法令遵守の基盤を構築します。

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企業のコンプライアンス(法令遵守)体制の構築は、リスク管理の基盤です。

内部統制システム(会社法362条4項6号): 大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)は、取締役会で内部統制システムの基本方針を決定しなければなりません。

公益通報者保護法(2022年改正): 従業員300人超の企業に内部通報体制の整備が義務化されました。通報者への不利益取扱いは禁止されます。

個人情報保護法: 個人情報取扱事業者は、利用目的の特定・公表、安全管理措置、第三者提供の制限等の義務を負います。2022年改正で漏洩報告の義務化、個人の権利拡充等が行われました。

反社会的勢力の排除: 契約書への暴力団排除条項の記載、取引先のスクリーニングが実務上求められます。

ハラスメント防止: パワハラ防止法(労働施策総合推進法30条の2)、セクハラ防止(均等法11条)、マタハラ防止(均等法9条3項)の各措置義務に対応が必要です。

知的財産権の保護

特許・商標・著作権・営業秘密で企業の競争力を守ります。

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企業にとって知的財産の保護は競争力の源泉です。

特許権(特許法): 発明を保護。出願日から20年(医薬品は最長25年)。出願から登録まで通常2〜3年。費用は出願から登録まで30〜60万円程度。職務発明(特許法35条)の対価についても社内規定を整備する必要があります。

商標権(商標法): 商品・サービスのブランドを保護。登録から10年(更新可能で半永久的)。出願から登録まで6〜12ヶ月。費用は1区分で約15〜25万円程度。

著作権(著作権法): 創作と同時に発生(無方式主義)。法人著作(著作権法15条)の要件を満たせば、従業員が職務上作成した著作物は法人に帰属します。ソフトウェアの著作権帰属にも注意が必要です。

営業秘密(不正競争防止法2条6項): 秘密として管理されている有用な技術上・営業上の情報は、不正競争防止法により保護されます。秘密管理性の要件を満たすため、アクセス制限、秘密指定等の管理措置が必要です。

知財戦略: 出願前の先行技術調査、権利のポートフォリオ管理、侵害監視、ライセンス契約の整備が重要です。

M&A・事業承継

企業の買収・合併や事業の引き継ぎに関する手法と手続きです。

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企業の合併・買収(M&A)と事業承継は、企業法務の中でも高度な専門性が求められる分野です。

M&Aの手法: 株式譲渡、事業譲渡(会社法467条)、合併(会社法748条以下)、株式交換・移転(会社法767条以下)、会社分割(会社法757条以下)等があります。

デューデリジェンス(DD): 買収対象企業の法務・財務・税務・労務・環境等を調査します。法務DDでは、訴訟リスク、契約上のチェンジオブコントロール条項、知的財産権、労務コンプライアンス、許認可等を確認します。

事業承継の3つの方法: 1. 親族内承継: 贈与税・相続税対策が重要。事業承継税制(経営承継円滑化法)の活用で最大100%の納税猶予が可能。 2. 従業員承継(MBO): 株式買取資金の確保が課題。 3. 第三者承継(M&A): 中小企業のM&Aは事業引継ぎ支援センター等の公的支援も活用可能。

表明保証: M&A契約では、対象会社の状態について売主が表明保証し、違反時の補償条項を定めます。

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項目条文概要
株式会社設立会社法25条以下定款の作成、出資の履行、設立の登記
取締役の善管注意義務会社法330条・民法644条取締役は善良な管理者の注意をもって職務を行う
対会社責任会社法423条取締役の任務懈怠による損害賠償責任
対第三者責任会社法429条悪意・重過失による第三者への損害賠償責任
内部統制会社法362条4項6号大会社の内部統制システム整備義務
下請法下請代金支払遅延等防止法下請取引の公正化と下請事業者の利益保護
事業譲渡会社法467条事業の全部又は重要な一部の譲渡には株主総会の特別決議が必要

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よくある質問

顧問弁護士の費用はどのくらいですか?
月額3〜10万円が一般的です。契約書のレビュー、法律相談、トラブル対応などが含まれます。スポット(都度依頼)の場合は1件5〜30万円程度です。月の相談回数や対応範囲によって金額が変わるため、自社の法務ニーズに合ったプランを選ぶことが重要です。
株式会社と合同会社、どちらを選ぶべきですか?
株式会社は社会的信用が高く、上場や株式による資金調達が可能です。合同会社は設立費用が安く(約6〜10万円)、定款自治の範囲が広いため、小規模事業やスタートアップに適しています。なお、合同会社から株式会社への組織変更も可能です(会社法746条)
取締役が個人で責任を問われることはありますか?
はい。取締役は会社に対する任務懈怠責任(会社法423条)のほか、悪意・重過失がある場合は第三者(取引先、債権者等)に対しても個人として損害賠償責任を負います(会社法429条)。D&O保険への加入で一定のリスクヘッジが可能です。
契約書のリーガルチェックは必要ですか?
重要な契約では必須です。特に、損害賠償の上限・範囲、知的財産権の帰属、解除条件、競業避止条項、準拠法・管轄等は専門家のチェックが望ましいです。契約書のレビュー費用は1件3〜10万円程度が相場で、トラブル発生後の訴訟費用と比較すれば極めて低コストです。
中小企業でも内部統制は必要ですか?
会社法上の内部統制システム整備義務は大会社(資本金5億円以上等)に限定されますが、中小企業でも横領・不正防止のための最低限の内部統制(経理の分離、承認フロー、内部監査等)は経営上不可欠です。公益通報者保護法の改正により、300人超の企業には内部通報体制の整備も義務化されています。

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※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。

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