自己破産とは
自己破産とは、裁判所に破産申立てを行い、免責許可決定を得ることで、原則としてすべての借金の返済義務を免除してもらう法的手続きです。根拠法は破産法であり、「支払不能」(破産法15条1項)の状態にある個人が申立適格を持ちます。
「支払不能」とは、債務者が弁済期にある債務を一般的・継続的に弁済できない客観的状態を指します(破産法2条11号)。資産を全て換価しても借金総額に満たない「債務超過」である必要はなく、収入・財産の水準から見て返済の見込みが立たない状態であれば要件を満たします。
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自己破産の申立要件
自己破産を申し立てるには、以下の要件を充たす必要があります。
- 支払不能であること(破産法15条1項)
- 免責不許可事由(後述)がないこと、またはあっても裁量免責が期待できること
- 過去7年以内に免責許可決定を受けていないこと(破産法252条1項10号)
借金の額そのものに法律上の下限はありませんが、実務上は概ね300万円以上の負債がある場合に申立てが検討されます。
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管財事件と同時廃止の違い
自己破産には大きく分けて2つの手続類型があります。申立人の資産状況や負債の性質によってどちらに該当するかが決まります。
| 項目 | 同時廃止 | 管財事件 |
|---|---|---|
| 対象 | 換価できる財産がほぼない場合 | 一定以上の財産がある場合・免責不許可事由あり等 |
| 破産管財人 | 選任されない | 選任される(弁護士) |
| 予納金(裁判所) | 1〜2万円程度 | 20万円〜(少額管財は20万円) |
| 手続期間 | 約3〜4ヶ月 | 約6ヶ月〜1年以上 |
| 免責審尋 | 書面審査が中心 | 面談あり |
| ギャンブル・浪費 | 免責不許可リスクあり | 管財人の調査後に裁量免責の判断 |
同時廃止は、財産らしい財産がない場合に、破産手続開始と同時に破産手続を廃止する類型です。破産管財人が選任されず費用・期間ともに短くて済みます。
管財事件は、一定の財産がある場合や免責不許可事由が疑われる場合に、破産管財人が財産を換価して債権者に配当する手続きです。弁護士費用に加えて管財人への予納金が必要になります。
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手続きの流れ
Step 1|法律相談・方針決定 借金の総額、収入・財産の状況、免責不許可事由の有無を確認し、自己破産・任意整理・個人再生のいずれが適切かを検討します。
Step 2|受任通知の送付 弁護士が受任すると、債権者全員に受任通知を送付します。これにより取立てが即日ストップします(貸金業法21条)。
Step 3|申立書類の準備 陳述書(借金の経緯・家計状況の説明)、債権者一覧表、財産目録、家計収支表など多数の書類を作成します。通常2〜3ヶ月かかります。
Step 4|裁判所への申立て 管轄の地方裁判所(住所地)に書類を提出し、予納金を納付します。
Step 5|破産手続開始決定 裁判所が申立てを審査し、破産手続開始決定を下します。管財事件の場合は破産管財人が選任されます。
Step 6|免責審尋 裁判所(または書面)で、免責不許可事由の有無を確認するための審尋が行われます。
Step 7|免責許可決定・確定 免責許可決定が下り、即時抗告期間(2週間)が経過すると免責が確定し、借金の返済義務が消滅します。
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申立てに必要な書類リスト
- 破産・免責申立書
- 陳述書(借金の経緯、家計状況)
- 債権者一覧表(借入先・残高一覧)
- 財産目録(不動産・預金・保険・車等)
- 家計収支表(直近2ヶ月分)
- 預金通帳のコピー(直近2年分)
- 給与明細または源泉徴収票
- 住民票・戸籍謄本
- 不動産登記事項証明書(所有者の場合)
- 生命保険解約返戻金の確認書類
- 車検証(自動車所有者の場合)
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費用の目安
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 弁護士費用(同時廃止) | 20〜35万円 |
| 弁護士費用(管財事件) | 30〜50万円 |
| 裁判所への予納金(同時廃止) | 1〜2万円 |
| 裁判所への予納金(少額管財) | 20万円 |
| 裁判所への予納金(通常管財) | 50万円〜 |
弁護士費用は分割払いに対応している事務所が多く、受任後は取立てが止まるため、毎月の返済を止めて費用を積み立てることが一般的です。
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免責確定までのタイムライン
- 同時廃止: 申立てから免責確定まで約3〜4ヶ月
- 少額管財: 申立てから免責確定まで約6ヶ月
- 通常管財: 申立てから免責確定まで約6ヶ月〜1年以上
受任通知の送付から弁護士費用の積立期間も含めると、相談開始から免責確定までトータル6ヶ月〜1年半程度を見込むのが一般的です。
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職業制限(資格制限)の具体リスト
破産手続開始決定から免責確定までの期間(同時廃止で約3〜4ヶ月)は、破産法上「破産者」の地位にあり、以下の職業・資格に就くことができません(資格制限)。免責確定後は制限が解除されます。
- 弁護士・司法書士・行政書士・税理士・公認会計士・弁理士
- 宅地建物取引士(宅建士)
- 不動産鑑定士
- 保険外交員(生命保険募集人)
- 警備員
- 後見人・保佐人・補助人・遺言執行者
- 会社の取締役・監査役(会社法331条1項3号)
なお、公務員・医師・教員などは資格制限の対象外です。現職の仕事を続けながら手続きを進めることができます。
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自由財産(手元に残せる財産)
自己破産しても、以下の財産は「自由財産」として手元に残すことができます。
- 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- 差押禁止財産(民事執行法131条): 生活に必要な家財道具・衣服・食料品など
- 退職金の8分の1相当額(残額は破産財団に組入れ)
- 裁判所が自由財産拡張を認めた財産(実務上は20万円以下の財産が多い)
預金口座・不動産・自動車・保険解約返戻金(20万円超)などは原則として破産財団に組み込まれ、管財人によって換価・配当されます。
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免責不許可事由と裁量免責
以下に該当する行為があると、免責が認められない場合があります(破産法252条1項)。
- 財産の隠匿・損壊
- 破産財団を不当に減少させる行為
- 浪費・賭博その他の射幸行為による著しい財産の減少
- 不当な債務負担(返済見込みのない借入れ)
- 特定の債権者に対する偏頗弁済(破産手続開始前90日以内)
- 虚偽の債権者一覧表の提出
- 破産管財人の業務妨害
- 説明義務・帳簿保存義務の違反
ただし、破産法252条2項により、免責不許可事由があっても裁判所の裁量によって免責が認められる「裁量免責」の制度があります。ギャンブルや浪費があっても、反省の態度や更生の見込みが認められれば、実務上は多くのケースで裁量免責が認められています。
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メリット・デメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット① | 借金の返済義務が法的に消滅する |
| メリット② | 受任通知後すぐに取立てが止まる |
| メリット③ | 生活の立て直しに集中できる |
| メリット④ | 99万円以下の現金など最低限の財産は手元に残る |
| デメリット① | 信用情報機関に5〜10年登録される(いわゆるブラックリスト) |
| デメリット② | 不動産・自動車・高額保険など多くの財産を失う |
| デメリット③ | 官報に氏名・住所が掲載される |
| デメリット④ | 手続き中は一部職業・資格に就けない(免責確定後は解除) |
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任意整理・個人再生との比較
| 比較項目 | 任意整理 | 個人再生 | 自己破産 |
|---|---|---|---|
| 借金の減額 | 利息カット程度 | 原則1/5〜1/10に圧縮 | 全額免除 |
| 裁判所の関与 | なし | あり | あり |
| 財産への影響 | ほぼなし | 持ち家保持が可能(住宅ローン特則) | 財産の大半を失う |
| 職業制限 | なし | なし | 手続き中あり(免責後解除) |
| 信用情報への記録 | 5年程度 | 5〜10年 | 5〜10年 |
| 向いているケース | 特定の債権者のみ整理したい | 住宅を守りたい・安定収入あり | 返済が全く見込めない |
借金の状況や資産・収入の有無によって最適な手続きは異なります。どの手続きが適切かは、個別の事情を踏まえた検討が必要です。