改正の背景 — 老朽マンション125万戸超の時代
2026年時点で、築40年を超えるマンションは全国で125万戸超に達しています。国土交通省の推計によれば、この数は今後も急速に増加し、2036年には約260万戸に達する見通しです。老朽化したマンションでは、建替えや大規模修繕の合意形成が喫緊の課題となっていますが、所在不明・連絡不能の区分所有者の存在が決議の成立を妨げる深刻な障害となっていました。
こうした状況を受け、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)およびマンション管理適正化法(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)の改正が2024年の通常国会で成立し、2026年4月に施行されました。
所在不明・連絡不能区分所有者への対処制度
従来の問題点
区分所有法上の集会決議は、原則として区分所有者の頭数および議決権の一定割合以上の賛成を要します。しかし、所在不明の区分所有者は集会に出席せず、議決権を行使しないため、事実上の反対票と同じ効果を持ち、合意形成を困難にしていました。
改正法の新制度
改正区分所有法では、以下の手続きにより所在不明・連絡不能の区分所有者を決議の母数から除外できる制度が新設されました。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 所在等不明区分所有者の認定 | 管理者が裁判所に申立て、相当期間の調査を経て「所在等不明」と認定 |
| 決議母数からの除外 | 認定された区分所有者を集会決議の母数(頭数・議決権)から除外可能 |
| 対象となる決議 | 普通決議・特別決議のいずれにも適用(建替え決議を含む) |
| 事前公告 | 除外の申立て前に一定期間の公告を実施し、権利保護を担保 |
この制度により、例えば50戸のマンションで5戸の所有者が所在不明の場合、建替え決議の母数を45戸として計算できるようになり、合意形成が大幅に容易になります。
建替え決議要件の緩和
従来の要件
改正前の区分所有法62条は、建替え決議に区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成を要求していました。80%という高いハードルは、建替えの必要性が明らかな老朽マンションでも合意形成を極めて困難にしていました。
改正後の要件
改正法では、以下の要件を満たす場合に建替え決議の要件が4分の3以上(75%以上)に緩和されました。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 客観的事由の存在 | 耐震性不足、外壁剥落の危険、設備の著しい劣化など、客観的に建替えの必要性が認められること |
| 特定行政庁の認定 | 建築基準法に基づく特定行政庁が当該マンションの要除却認定を行っていること |
| 修繕の非合理性 | 修繕・改修では安全性の確保が技術的・経済的に困難であること |
これは、安全上の問題があるにもかかわらず決議要件の厳しさゆえに建替えが進まないという事態を解消するための措置です。なお、上記の客観的事由がない場合は、従来通り5分の4以上の賛成が必要です。
管理不全マンションへの行政関与の強化
マンション管理適正化法の改正
改正マンション管理適正化法では、管理不全状態にあるマンションに対する地方公共団体の権限が強化されました。
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| 助言・指導 | 管理組合の運営、修繕計画、会計処理等について助言・指導を実施 |
| 勧告 | 助言・指導に従わない場合、改善勧告を実施(マンション管理適正化法5条の2) |
| 管理計画認定制度 | 適正な管理計画を有するマンションを地方公共団体が認定する制度の拡充 |
| 管理不全の公表 | 勧告に従わない場合、管理不全の事実を公表できる規定の整備 |
管理計画認定制度の拡充
2022年4月に開始された管理計画認定制度が拡充され、認定を受けたマンションは住宅金融支援機構の融資優遇や固定資産税の減額措置などの優遇を受けることが可能です。これにより、管理組合が適正な管理を行うインセンティブが強化されています。
修繕積立金制度の見直し
段階増額方式の問題点
多くのマンションで採用されている段階増額方式(当初は低額に設定し、段階的に値上げする方式)は、以下の問題を抱えていました。
- 将来の値上げに対する住民合意が得られず、必要額に達しないケース
- 値上げの先送りによる修繕積立金の慢性的不足
- 高齢の区分所有者を中心に値上げへの心理的抵抗が強い
均等積立方式への移行推進
国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改訂し、均等積立方式(長期修繕計画の全期間にわたり均等額を積み立てる方式)への移行を推進しています。
| 方式 | 特徴 | メリット・デメリット |
|---|---|---|
| 段階増額方式 | 当初低額、段階的に値上げ | 初期負担軽だが将来の値上げ合意が困難 |
| 均等積立方式 | 全期間一定額 | 安定的な資金確保が可能、初期負担はやや重い |
ガイドラインでは、専有面積あたりの修繕積立金の目安額も提示されており、管理組合が長期修繕計画を策定する際の参考となります。
実務上の注意点
- 所在不明区分所有者の除外制度を利用するには、裁判所への申立てが必要であり、管理組合として弁護士等の専門家に相談することが推奨される
- 建替え決議要件の緩和は一定の客観的事由がある場合に限られるため、耐震診断や劣化診断を事前に実施しておくことが重要
- 管理計画認定制度の認定を受けるためには、長期修繕計画の策定、修繕積立金の適正な設定、管理規約の整備など包括的な管理体制の構築が求められる
- 修繕積立金の方式変更には集会の普通決議(過半数)が必要であり、住民への丁寧な説明と合意形成が不可欠である
- 今後は管理不全マンションの公表制度の運用に注目が必要であり、資産価値への影響を考慮した早期対応が望ましい
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*法律のミカタ編集部 | 2026年4月26日公開*