在日外国人の国際相続|本国法か日本法か・相続税の落とし穴【2026年実務】
相続最終更新: 2026-05-21約7分で読めます弁護士監修済

在日外国人の国際相続|本国法か日本法か・相続税の落とし穴【2026年実務】

この記事のポイント

  • 日本の国際私法(通則法36条)では被相続人の本国法が相続準拠法となる「統一主義」を採用
  • 多くの英米法国は「分割主義」(動産=住所地法・不動産=所在地法)を採るため、相反問題(レンヴォワ)が頻発
  • 相続税は被相続人・相続人の住所/国籍/在留資格により課税範囲が大きく異なる(無制限納税義務者の判定)
  • 日本所在の不動産・預貯金は外国法でも基本的に日本の登記・解約手続が必要、プロベート不要だが書類整備が複雑
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日本に居住する外国籍住民(永住者・特別永住者・中長期在留者を含む約380万人、2024年末)が亡くなった場合、または日本人が外国に資産を残して亡くなった場合の「国際相続」は、複数国の法律と税制が絡む複雑な領域です。本記事では在日外国人とその家族、国際結婚カップル、海外資産を持つ日本人が直面する実務論点を弁護士が整理します。

国際相続の枠組み

「準拠法」の決定 — 通則法36条

国際相続事案で最初に決まる論点は「どの国の法律が相続関係を規律するか」です。日本の国際私法である「法の適用に関する通則法」第36条は、被相続人の本国法を相続の準拠法とすると定めています(統一主義)。

被相続人の国籍準拠法(日本国際私法)
日本国籍日本法
外国籍(単一)その本国法
重国籍(日本含む)日本法
重国籍(日本含まず)常居所地法、または密接関係国法
無国籍常居所地法

反致(レンヴォワ)問題

外国法が日本法を準拠法と指定する場合があり、これを「反致」と呼びます。日本の通則法41条は反致を認めるため、循環論的に日本法が適用されるケースが頻出します。

典型例: 米国籍の被相続人が日本に居住し、日本に不動産・預貯金を所有して死亡した場合 - 日本法視点: 米国法準拠(通則法36条、被相続人の本国法) - 米国法視点(コモンロー): 動産=ドミサイル(日本)法、不動産=所在地(日本)法 - → 反致により日本法適用

分割主義(英米法)との衝突

統一主義 vs 分割主義

主義採用国内容
統一主義日本、ドイツ、フランス、スイス等動産・不動産を区別せず単一法で規律
分割主義英米法系(英、米、豪、加等)、中国動産=ドミサイル/常居所地法、不動産=所在地(レックス・シトゥス)法

実務上の衝突パターン

ケース1: 英国籍夫×日本国籍妻、日本居住、英国に不動産、日本に預貯金 - 日本視点: 全体に英国法適用(通則法36条) → 英国法視点: 不動産=英国法、動産=日本法(常居所地) - 反致発生 → 日本法部分(預貯金)+英国法部分(不動産)が並走

ケース2: 米国籍永住者×米国籍配偶者、日本居住、双方の財産が日本国内 - 日本視点: 米国法適用 → 米国法視点: 動産=日本法、不動産=日本法 → 反致で全部日本法 - 米国に資産があれば米国側のProbate(検認)手続が別途必要

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相続税の準拠 — 別レイヤー

国際相続税の課税範囲

相続税法は民事の準拠法とは独立に、被相続人・相続人の地位で課税範囲を決定します。

区分被相続人相続人課税範囲
居住無制限納税義務者日本居住日本居住世界中の財産
非居住無制限納税義務者日本居住歴あり/特定永住者日本居住歴あり等世界中の財産
制限納税義務者海外居住海外居住日本所在財産のみ
特定納税義務者(贈与税)特定別途規定

在日外国人特有の論点

永住者・特別永住者 が亡くなった場合は通常「居住無制限納税義務者」になります。これは世界中の財産が日本の相続税対象になることを意味し、本国にある不動産・預貯金も日本で課税されます(外国税額控除あり)。

中長期在留者(就労ビザ等)で日本滞在10年以下の場合は、海外財産は原則として日本相続税の対象外という特例があります(平成29年改正、いわゆる「住所10年ルール」)。

実務上の手続

日本所在資産の処理

被相続人国籍に関わらず、日本国内の不動産・預貯金・株式の処分には日本の手続が必要です。

資産必要書類
不動産相続登記申請(法務局)、被相続人の本国法による相続人確定書類+認証(アポスティーユ/領事認証)
預貯金銀行の相続手続(本国の死亡証明書、相続人確定書類、遺産分割協議書)
上場株式証券会社の相続手続(類似)

本国法の証明として「準拠法証明書」または各国大使館発行の法定相続人証明等が必要となるケースが多く、書類取得に2-6か月を要します。

プロベート(Probate)との関係

日本にはプロベート(検認手続による相続執行)の制度がなく、相続人が直接相続手続をできます。一方、米国・英国・豪州等の被相続人の場合、本国でプロベートが進行する一方で日本の資産は直接相続できるため、両国の手続が並走します。

国際遺言の問題

遺言の方式の準拠法

日本は「遺言の方式の準拠法に関する法律(1962年成立、ヘーグ条約準拠)を採用しており、以下のいずれかを満たせば日本で有効です:

  1. 行為地法
  2. 遺言者の本国法
  3. 遺言者の住所地法
  4. 遺言者の常居所地法
  5. (不動産の場合)所在地法

自筆証書遺言 vs 公正証書遺言の国際的有効性

公正証書遺言は形式的に明確で、外国でも翻訳+認証で承認されやすい。自筆証書遺言は遺言の方式の準拠法をクリアすれば有効ですが、外国当局での承認に追加手続が必要な場合があります。

ケーススタディ

事例1: 韓国籍永住者の相続

被相続人: 韓国籍特別永住者(在日3世)、日本居住60年、日本に不動産・預貯金、韓国の本籍に若干の資産。

  • 準拠法: 韓国民法(通則法36条)
  • 韓国民法の相続規定: 配偶者+子の場合、配偶者1.5+子1.0の比率 (日本民法と異なる)
  • 手続: 韓国の戸籍謄本(家族関係証明書)、韓国民法に基づく相続人証明 → 日本の不動産登記・預貯金解約
  • 税務: 居住無制限納税義務者、世界財産課税

事例2: 米国籍駐在員の事故死

被相続人: 米国籍、就労ビザで日本駐在5年、日本に銀行口座、米国に主たる資産。

  • 準拠法: 米国法(被相続人の本国法、ただし州法、e.g. NY州法)
  • 米国側手続: 米国裁判所でProbate進行(Executor任命、債務清算、分配)
  • 日本側手続: 日本の銀行口座は米国Executorの認証書類で解約可
  • 税務: 制限納税義務者(日本住所10年以下のため海外資産は日本相続税対象外)、日本所在資産のみ日本で課税

事例3: 国際結婚カップルの相続

被相続人: 日本国籍夫、英国籍妻、英国に共有不動産、日本に夫名義口座、子は二重国籍。

  • 夫(日本籍)死亡時: 日本法準拠(通則法36条)、英国不動産も日本法で処理を試みるが、英国側でProbate必要(分割主義)
  • 解決アプローチ: 生前に遺言を整備(英国法・日本法双方で有効な公正証書遺言)、または生前贈与・信託で問題を回避

弁護士関与が必要なケース

被相続人側(生前対策)

  1. 遺言整備: 国際的に有効な公正証書遺言の作成、執行者指定
  2. 生前贈与・信託: 国際相続税最適化、家族信託の活用
  3. 国籍・住所選択: 帰化、永住権、長期居住の影響評価

相続人側(死後対応)

  1. 準拠法の確定: 通則法+反致判定、適用国法の証明
  2. 本国法に基づく相続人確定: 戸籍謄本相当の取得、認証(アポスティーユ/領事認証)
  3. 国際相続税申告: 二重課税回避(外国税額控除)、申告期限管理(死亡から10か月)
  4. 海外資産の処理: 現地弁護士・司法書士との連携、Probate進行管理

結論

国際相続は日本と外国の民事法+税法+手続法が交錯する複雑な領域です。在日外国人約380万人の増加に伴い、相談件数は年々増加しています。

今すぐ実施すべきこと(在日外国人): - 公正証書遺言の整備(日本法+本国法で有効性確認) - 本国の資産+日本の資産の一覧化 - 相続人(本国の戸籍関係)の確定書類の事前準備 - 日本相続税の納税義務者区分の確認

国際相続・遺言・相続税については、国際相続実務に詳しい弁護士(できれば英語・本国語対応可)へのご相談をお勧めします。

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※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。

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