改正の背景
日本の男女間賃金格差は、主要先進国の中でも依然として大きく、OECD加盟国の平均を上回る水準にあります。政府は格差解消に向けて段階的に法制度を強化しており、2022年には従業員301人以上の企業に男女間賃金差異の公表を義務付けました。
しかし、従業員101人〜300人の中堅企業は公表義務の対象外であり、全体の格差解消が進まない要因のひとつとされてきました。こうした課題を受け、2025年6月に改正女性活躍推進法が公布され、2026年4月1日から施行されています。
改正のポイント
1. 情報公表義務の拡大
改正の最大のポイントは、男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務の対象拡大です。
| 企業規模 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 301人以上 | 男女間賃金差異の公表義務あり | 男女間賃金差異+女性管理職比率の公表義務 |
| 101人〜300人 | 公表義務なし | 男女間賃金差異+女性管理職比率の公表義務(新設) |
| 100人以下 | 努力義務 | 努力義務(変更なし) |
2. 法律の有効期限延長
女性活躍推進法は当初、2026年3月末までの時限立法でした。今回の改正により、有効期限が2036年3月末まで10年間延長されました。延長の理由として、出産・育児期の就業継続では一定の成果が見られる一方、女性管理職比率や賃金格差などの課題が依然として解消されていないことが挙げられています。
3. 健康課題への配慮
生理、更年期、不妊治療といった女性特有の健康課題への配慮が、法律の基本原則に追加されました。また、これらに積極的に取り組む企業を評価する新認定制度として「えるぼしプラス」「プラチナえるぼしプラス」の創設が予定されています。
男女間賃金差異の算出方法
公表が義務づけられる男女間賃金差異は、以下の方法で算出します。
算出式
男女間賃金差異(%) = 女性の平均年間賃金 ÷ 男性の平均年間賃金 × 100
公表の区分
| 区分 | 対象者 |
|---|---|
| 全労働者 | 正規・非正規を含む全従業員 |
| 正規雇用労働者 | 正社員・無期雇用フルタイム |
| 非正規雇用労働者 | パート・有期雇用・派遣等 |
注記すべき事項
- 対象期間(事業年度)
- 賃金の範囲(基本給・賞与・手当の含有範囲)
- 対象労働者の範囲
- その他補足説明(短時間労働者の換算方法など)
公表期限
施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。多くの企業(3月決算)では、2027年6月頃が最初の公表期限となる見込みです。
一般事業主行動計画
従業員101人以上の企業は、一般事業主行動計画の策定・届出も義務です。行動計画には以下を盛り込む必要があります。
- 計画期間: 2〜5年間
- 数値目標: 女性採用比率、管理職比率、男女賃金差異の改善目標など
- 取組内容: 目標達成のための具体的施策
- 公表: 自社ホームページや厚労省「女性の活躍推進企業データベース」で公表
就活セクハラ防止の義務化
今回の一連の法改正では、就活セクハラ(求職者等に対するセクシュアルハラスメント)の防止が事業主の措置義務に追加されます(労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法の改正、2026年10月頃施行予定)。
企業に求められる措置
| 措置内容 | 詳細 |
|---|---|
| 方針の明確化 | 就活セクハラを行ってはならない旨の方針策定・周知 |
| 相談窓口の設置 | 求職者・インターン生からの相談に対応できる体制整備 |
| 事後対応 | 事案発生時の迅速かつ適切な対応(事実確認・行為者への措置) |
| プライバシー保護 | 相談者・通報者の個人情報の適切な管理 |
違反した場合のリスク
行政指導・勧告・公表
情報公表義務に違反した企業には、厚生労働大臣による報告徴収・助言・指導・勧告が行われます。勧告に従わない場合、企業名の公表という制裁措置があり、企業の採用活動やブランドイメージに大きな影響を及ぼす可能性があります。
虚偽報告への罰則
報告徴収に対して虚偽の報告を行った場合、20万円以下の過料が科されます。
企業が今すぐ取り組むべきこと
対応チェックリスト
| 優先度 | 対応事項 | 期限目安 |
|---|---|---|
| 高 | 男女間賃金差異の算出・集計体制の構築 | 2026年度中 |
| 高 | 女性管理職比率のデータ整備 | 2026年度中 |
| 高 | 一般事業主行動計画の策定・届出 | 施行日まで |
| 中 | 情報公表の方法・媒体の決定 | 2026年度中 |
| 中 | 就活セクハラ防止のための相談窓口整備 | 2026年10月まで |
| 低 | えるぼし認定の取得検討 | 随時 |
従業員向けの対応
- 賃金制度の見直し(不合理な男女間格差がないか検証)
- 女性のキャリアアップ支援プログラムの充実
- 管理職登用における公正な評価基準の整備
- 育児・介護との両立支援制度の周知
法改正への対応に不安がある場合は、社会保険労務士や労働法に詳しい弁護士への相談をおすすめします。特に初めて情報公表義務の対象となる101人〜300人規模の企業は、早めの準備が重要です。