企業法務弁護士監修済
Q.SaaSを解約したのに「解約後3か月分」の料金を請求されています。利用規約のこの条項は有効ですか?
A.
当然に有効とはいえません。消費者なら平均的な損害を超える解約金は無効、企業どうしでも定型約款の不当条項は合意がなかったものとみなされます。
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SaaSの利用規約にある「解約後3か月分の料金を請求する」という条項は、それだけで当然に有効とも無効ともいえません。利用者が消費者なら、解約に伴う違約金のうち、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項1号)。企業どうしの契約でも、利用規約が定型約款に当たる場合は、相手方の利益を一方的に害する条項は合意しなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。まず、規約の文言、同意した経緯、解約の手続と課金の対象期間を確認することが出発点です。
こんな場面で問題になります
・社内で使わなくなったSaaSを解約したのに、翌月以降も請求が続いている。
・規約を読み返すと「解約申出の翌月から3か月分の利用料を支払う」と書かれていた。
・自社が提供するSaaSについて、顧客から解約後の請求に異議を受けた。
・規約が改定されて解約条件が厳しくなっていたが、改定の通知を見た記憶がない。
1. 最初に確認すること
解約後の請求が正当かどうかは、契約の形と条項の中身で決まります。次の点を整理してください。
・契約の形:個別に交渉して契約書を結んだのか、ウェブ上の利用規約に同意しただけか
・条項の中身:最低利用期間、解約予告期間、解約金のどれを定めているか
・解約の手続:いつ、どの方法で解約を申し出たか(規約が定める方法に沿っているか)
・請求の中身:どの期間の、どのサービスの料金として請求されているか
同じ「3か月分」でも、意味は一つではありません。「解約は3か月前までに通知する」という解約予告期間の定めなのか、「解約後も3か月分を支払う」という違約金の定めなのかで、検討の仕方が変わります。まず条項の文言を正確に読み、請求書の内訳と照らし合わせることが大切です。
2. 利用者が消費者の場合
消費者契約法は、消費者と事業者の間の契約に適用されます。ここでいう消費者は個人に限られ、事業として、または事業のために契約する個人は含まれません(消費者契約法2条1項)。
消費者との契約では、次のルールが関係します。
・解約に伴う損害賠償の予定や違約金を定める条項は、同種の契約の解約に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効です(消費者契約法9条1項1号)。
・事業者は、違約金などを請求する際に消費者から説明を求められたら、算定の根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(同法9条2項)。
・法令の任意規定に比べて消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効です(同法10条)。
また、ウェブ上で申し込むSaaSは、特定商取引法の通信販売に当たることがあります。その場合、申込みの最終確認画面に、対価や支払の時期のほか、契約の解除に関する事項を表示しなければなりません(特定商取引法12条の6第1項、11条5号)。
3. 企業どうしの契約(BtoB)の場合
利用者が会社であれば、消費者契約法は適用されません(消費者契約法2条1項・2項)。特定商取引法の通信販売の規定も、営業のために締結する契約には適用されません(特定商取引法26条1項1号)。
企業どうしの場合に中心となるのは、民法の定型約款のルールです。定型約款とは、不特定多数を相手とし、内容が画一的であることが双方にとって合理的な取引(定型取引)で、契約の内容とするために事業者が準備した条項の総体をいいます(民法548条の2第1項)。多くの利用者に同じ規約で提供するSaaSの利用規約は、これに当たることが多いと考えられます。
定型約款については、次のルールがあります。
・規約を契約の内容とする合意をしたときや、事業者があらかじめその旨を表示していたときは、個別の条項にも合意したものとみなされます(民法548条の2第1項)。
・ただし、相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項で、取引の態様や実情、取引上の社会通念に照らして信義則に反し相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、合意しなかったものとみなされます(同条2項)。
・利用者は、合意の前、または合意後相当の期間内であれば、規約の内容を示すよう請求できます。事業者が合意の前にこの請求を拒んだときは、一時的な通信障害などの正当な事由がある場合を除き、個別の条項に合意したものとみなす規定は適用されません(同法548条の3)。
・事業者が規約を一方的に変更するには、変更が利用者の一般の利益に適合するか、契約の目的に反せず合理的であることが必要です。さらに、効力発生時期を定め、変更内容などをインターネットなどで周知しなければなりません(同法548条の4)。
なお、個別に交渉して条件を決めた契約書であれば、定型約款ではなく、通常の契約として判断されます。違約金は損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、公の秩序や善良の風俗に反する内容は無効です(同法90条)。
4. 解約後の請求を受けた利用企業の対応
請求が来たら、すぐに支払うか拒むかを決めず、次の順に進めるのが安全です。
まず、請求の根拠となる条項を、書面で示すよう事業者に求めます。規約がその場で見られない場合は、規約の内容の表示を求めることができます(民法548条の3第1項)。ただし、事業者がすでに規約を書面や電子データで提供していたときは、この限りではありません(同項ただし書)。
次に、契約時の規約と現在の規約が同じかを確認します。改定後の規約で解約条件が厳しくなっていたなら、改定が民法548条の4の要件と周知の手続を満たしていたかが問題になります。
そのうえで、条項の効力に疑問がある部分について、理由を示して異議を伝えます。口座振替やカード払いを一方的に止めると、契約上は不払いとして扱われるおそれがあります。止める前に、未払いの扱いと遅延損害金の定めを確認してください。
5. SaaSを提供する事業者が規約で気をつけること
提供する側にとっても、解約の条項は紛争になりやすい部分です。次の点を見直しておくと、請求の根拠を説明しやすくなります。
・最低利用期間、解約の手続、解約金の有無と金額を、申込みの画面でわかりやすく示す。
・消費者向けのプランでは、解約金を平均的な損害の範囲に収め、算定根拠を説明できるようにしておく。
・規約を変更するときは、効力発生時期を定め、変更内容を事前に周知する。
・解約の申出方法を規約に明記し、実際の手続を不当に難しくしない。
6. 解約をめぐる紛争を防ぐ社内の管理
利用する側の会社では、部署ごとにSaaSを契約し、解約条件を誰も把握していないことが少なくありません。解約後の請求の多くは、解約の申出が規約の期限に間に合わなかった、あるいは規約が定める方法で申し出ていなかったことから生じます。
契約しているSaaSについて、サービス名、契約日、更新日、最低利用期間、解約予告の期限、解約の申出方法、社内の担当者を一覧にしておくと、こうした行き違いを防げます。解約を決めたら、規約が定める方法で申し出て、受付の確認メールや画面を保存してください。
今すぐできること
・契約時の利用規約と現在の利用規約を保存し、解約条項の文言を比べる。
・解約を申し出た日時と方法がわかる記録(画面、メール)を残す。
・請求書の内訳から、どの期間の何の料金かを確認する。
・規約が手元にない場合は、事業者に規約の内容の表示を求める。
・自社が提供する側なら、申込み画面と規約で、解約条件の表示が一致しているかを確認する。
弁護士に相談すべきタイミング
・解約後の請求額が大きく、条項の効力について事業者と意見が対立している。
・事業者から、支払がなければ法的手続をとるという書面が届いた。
・規約が知らない間に変更されており、変更の有効性を争いたい。
・自社のSaaSについて、利用者から解約金の返還を求められた、または規約の見直しを考えている。
よくあるご質問
Q. 利用規約に同意した以上、解約後の請求には必ず応じなければなりませんか?
必ずではありません。利用者が消費者なら、平均的な損害を超える違約金は無効です(消費者契約法9条1項1号)。企業どうしでも、規約が定型約款に当たり、条項が相手方の利益を一方的に害する場合は、合意しなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。
Q. 会社としてSaaSを契約した場合も、消費者契約法で守られますか?
守られません。消費者契約法の「消費者」は個人に限られ、事業のために契約する場合は除かれます(消費者契約法2条1項)。会社の場合は、民法の定型約款のルールなどで判断します。
Q. 規約がいつの間にか変わっていました。変更後の条件に従う必要がありますか?
事業者が規約を一方的に変更できるのは、民法548条の4第1項の要件を満たす場合に限られます。利用者の一般の利益に適合しない変更は、効力発生時期が来るまでに変更内容などを周知しなければ、効力を生じません(同条3項)。
Q. 解約予告期間の定めと、解約後の料金の定めは違うのですか?
違います。解約予告期間は「いつまでに解約を申し出るか」の定めで、解約後の料金は「解約の後も料金を支払う」という定めです。どちらに当たるかで、違約金として見るべきかどうかが変わるため、文言を正確に確認してください。
Q. 消費者向けの解約金で問題になる「平均的な損害」とは何ですか?
条項で設定された解約の事由や時期などの区分ごとに、同じ種類の契約が解約されたときに、その事業者に生ずべき平均的な損害の額をいいます(消費者契約法9条1項1号)。個々の利用者ごとの損害ではなく、同種の契約全体で見た平均で考える点が特徴です。解約金がこれを超えると、超えた部分が無効になります。
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