2026年5月21日、改正民事訴訟法(令和4年法律第48号)が全面施行されます。本記事では、mints利用義務化・電子判決書・オンライン訴訟記録閲覧など、本人訴訟当事者と企業法務担当が知っておくべき5つの実務ポイントを解説します。施行直後の混乱を避けるため、施行日前に対応事項を整理しておくことが重要です。
改正民事訴訟法 全面施行のスケジュール
改正民事訴訟法は2022年に成立し、段階的に施行されてきました。
| 施行時期 | 主な施行内容 |
|---|---|
| 2023年3月1日 | 弁論準備手続のウェブ会議化、和解期日のウェブ参加 |
| 2024年3月1日 | 口頭弁論期日のウェブ会議参加 |
| 2026年5月21日 | 訴え提起の電子提出、電子判決書、オンライン訴訟記録閲覧、電磁的記録の証拠化 |
2026年5月21日の全面施行により、民事訴訟のほぼ全工程がデジタル化されます。
ポイント1: mintsによる電子提出義務(改正民訴法132条の11)
改正民訴法132条の11は、訴訟代理人である弁護士・司法書士に対し、訴状・準備書面・証拠説明書等の電子提出を原則として義務付けています。提出には最高裁判所が運用する民事裁判書類電子提出システム「mints」を利用します。
mintsで可能になる主な手続
- 訴状・反訴状の提出
- 準備書面・主張書面の提出
- 書証(PDF化した書面)の提出
- 上訴提起、申立書類の提出
利用義務の対象外
- 本人訴訟の当事者(弁護士をつけない原告・被告)
- やむを得ない事由がある弁護士(システム障害等)
ポイント2: 電子判決書とオンライン送達(改正民訴法252条等)
判決書は電子判決書として作成され、当事者への送達もシステム通知方式で行うことが可能になります。
従来の紙判決書との違い
| 項目 | 従来 | 改正後 |
|---|---|---|
| 判決書の形式 | 紙原本 | 電子判決書(PDF等) |
| 送達方法 | 郵送(特別送達) | システム通知+ダウンロード |
| 受領確認 | 受領印 | システム上のアクセスログ |
| 控訴期間の起算点 | 受領日 | システム上の閲覧可能日 |
控訴期間(民訴法285条:判決送達日から2週間)の起算がシステム閲覧可能日となるため、当事者・代理人はこまめなシステム確認が必須となります。
ポイント3: 訴訟記録のオンライン閲覧(改正民訴法91条の2)
従来、訴訟記録は裁判所書記官室で紙の記録を閲覧する必要がありました。改正後は、当事者・代理人がインターネット経由で訴訟記録を閲覧・謄写できるようになります。
利用可能な機能
- 訴訟記録のオンライン閲覧
- 必要部分のダウンロード(謄写)
- 検索機能(記録内のキーワード検索)
第三者の閲覧については、従来同様、利害関係を疎明した上での書記官許可が必要です。
ポイント4: 電磁的記録の証拠化(改正民訴法231条の2)
改正前は、電子データを証拠とするには紙印刷したものを書証として提出する必要がありました。改正民訴法231条の2は、電磁的記録そのものを独立した証拠調べの対象として規定しました。
想定される利用場面
- LINE・SNS・メールの生データ
- 動画・音声ファイル
- データベース・ログファイル
- ブロックチェーン記録
電磁的記録の真正性(改竄されていないこと)の証明方法は、ハッシュ値・タイムスタンプ・電子署名等を活用することが想定されています。
ポイント5: 本人訴訟への影響と注意点
本人訴訟(弁護士をつけない訴訟)の当事者は、引き続き紙での訴状・書面提出が可能です。ただし、以下の点に留意が必要です。
本人訴訟でも変わるポイント
- 相手方が弁護士の場合、相手方からの書面はmints経由で送付されるため、システムへのアクセス手段が必要
- 判決書を電子送達で受け取るかは選択可能(紙送達も継続)
- 期日のウェブ会議参加は本人訴訟でも認められる
推奨される対応
- 訴え提起前に、裁判所書記官室で手続案内を受ける
- mintsの閲覧用アカウント取得を検討(自分の事件記録を確認するため)
- 相手方が弁護士の場合、書面のやり取りで遅延が生じないようメール連絡を併用
弁護士事務所側の準備事項
訴訟代理を行う弁護士事務所は、施行日までに以下の準備が必要です。
- mints利用登録(最高裁判所システムへの事務所登録)
- 電子署名証明書(マイナンバーカードまたは士業認証局発行の電子証明書)取得
- 書面PDF化フローの業務プロセス整備
- 電子判決書の閲覧体制(控訴期間起算点を逃さないシステム監視)
企業法務担当者の留意点
企業の法務担当者は、訴訟当事者となる場合に備え以下を確認してください。
- 顧問弁護士のmints対応状況
- 社内での訴訟記録共有方法(電子化された記録の社内回付ルール)
- 電子証拠の保全方針(メール・チャット・ログの長期保存)
- 電子契約と訴訟証拠化の連携(電子契約サービスの監査証跡保全)
海外との比較
| 国・地域 | 電子訴訟導入時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 韓国 | 2010年〜 | 弁護士の電子提出ほぼ全面義務化 |
| シンガポール | 2000年〜 | アジア最古参、AI判決支援も導入 |
| 米国 | PACER/CM/ECF(連邦) | 弁護士電子提出が標準 |
| 日本 | 2026年5月21日全面施行 | mintsベース、本人訴訟は紙併用 |
日本は周回遅れと指摘されてきましたが、今回の全面施行で諸外国に追いつく形となります。
過渡期の混乱予測と対策
想定される問題
- 施行直後のmintsアクセス集中によるシステム障害
- 電子判決書の閲覧見落としによる控訴期間徒過
- 本人訴訟と弁護士代理事件が混在する場合の手続上の混乱
- 電子署名証明書未取得の弁護士による紙提出への一時的依存
対策
- 控訴・上告期間は施行直後はカレンダー管理を厳格化
- mintsの操作研修・マニュアル整備を施行前に完了
- システム障害時の緊急連絡体制(裁判所書記官との直通連絡)を確立
今後の展望
民事訴訟のIT化は、今後さらに以下の方向で進展する見込みです。
- AI判決支援システムの導入検討
- オンライン調停・ADRの拡大
- 知財事件等の国際電子裁判との接続
- 個人情報保護との両立(オンライン閲覧の第三者リスク管理)
まとめ
2026年5月21日の改正民事訴訟法全面施行は、日本の民事司法における画期的なデジタル転換点です。訴訟代理人弁護士のmints利用義務化、電子判決書、オンライン訴訟記録閲覧、電磁的記録の直接証拠化など、実務に大きな影響があります。
本人訴訟当事者は紙提出の継続が可能ですが、相手方が弁護士の場合のシステム連携には準備が必要です。企業法務担当は、顧問弁護士のmints対応・電子証拠保全・社内記録共有ルールの整備を施行前に完了すべきフェーズに入っています。
民事訴訟手続に不安がある場合は、IT訴訟対応に詳しい弁護士への相談をお勧めします。