労働問題弁護士監修済
Q.Uber Eatsなどの配達中に交通事故に遭いました。「業務委託だから労災は使えない」と言われましたが、本当ですか?
A.
業務委託の配達員は原則として労災の対象外ですが、特別加入団体を通じて「特別加入」すれば配達中の事故は補償されます。ただし通勤中は対象外です。
詳しく見る ▶
業務委託で働く配達員は、原則として労災保険の「労働者」にはあたりません。ただし、自転車・原付・自動車で配達をする人は、労災保険の「特別加入」という制度に、特別加入団体を通じて加入できます。加入していれば、配達中の事故について労災保険の給付を受けられます。ただし、配達員の区分では通勤中の事故は対象外です。また、契約が業務委託でも、働き方の実態から「労働者」と判断されれば、特別加入していなくても通常の労災保険が適用されます。
こんな場面で問題になります
・フードデリバリーの配達中に車と接触してけがをし、しばらく配達ができない。
・アプリの運営会社から「業務委託なので労災の対象外」と説明された。
・自社の配送業務を個人の配達員に委託しており、事故が起きたときの対応を決めていない。
・個人の配達員に、勤務時間やルートを細かく指示している。
1. 労災保険は、もともと「労働者」のための制度
労災保険は、労働者の業務上や通勤によるけが・病気などに対して給付を行う制度です(労働者災害補償保険法7条1項)。ここでいう労働者は、労働基準法の労働者と同じ考え方で判断され、事業に使用され、賃金を支払われる人をいいます(労働基準法9条)。
業務委託や請負の契約で働く個人事業主は、原則としてこの「労働者」にはあたりません。そのため、何もしなければ、配達中の事故に労災保険は使えません。「業務委託だから労災は使えない」という説明は、この原則を述べたものです。
ただし、次の2つの道があります。1つは「特別加入」、もう1つは「実態として労働者にあたる場合」です。
2. 配達員が使える「特別加入」
特別加入は、労働者でない人のうち、法律で定めた事業や作業をする人が、任意で労災保険に加入できる制度です(労働者災害補償保険法33条)。
配達の仕事については、次の事業が特別加入の対象です(労働者災害補償保険法施行規則46条の17第1号)。
・自動車を使って行う旅客・貨物の運送の事業
・原動機付自転車や自転車を使って行う貨物の運送の事業
厚生労働省によれば、原動機付自転車による貨物運送は2013年4月1日から、自転車による貨物運送は2021年9月1日から対象に加わりました。フードデリバリーの配達員も、この区分で加入します。
加入は個人で直接申し込むのではなく、都道府県労働局長の承認を受けた「特別加入団体」を通じて行います(労働者災害補償保険法35条1項、厚生労働省の特別加入のパンフレット)。保険の対象になるのは、加入の承認があった日からです(同法35条1項2号)。事故の後に加入しても、その事故は対象になりません。
3. 特別加入で受けられる給付と、対象外になるもの
特別加入していれば、配達のための運転や荷物の積み下ろしの作業中のけがなどについて、療養・休業・障害・遺族などの給付を受けられます。たとえば休業の給付は、休業4日目から、給付基礎日額の60%に特別支給金20%を加えた額が支給されます(厚生労働省リーフレット)。給付基礎日額とは、給付額を計算する基準となる1日あたりの額で、加入時に選びます。
注意が必要なのは、通勤中の事故です。運送の事業で特別加入した人は、業務中の事故だけが対象で、通勤中の事故は対象になりません(同法35条1項、同法施行規則46条の22の2、厚生労働省の特別加入のパンフレット)。自宅から配達エリアへ向かう途中の事故などは、補償の対象外になるおそれがあります。
4. 2024年11月から始まった「フリーランス」の特別加入との関係
2024年11月1日から、特定受託事業者(いわゆるフリーランス)が業務委託を受けて行う事業も、特別加入の対象になりました(同法施行規則46条の17第12号、厚生労働省)。これはフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の施行と同じ日です。
ただし、委託を受けた業務が、他の特別加入の事業や作業にあたる場合は、そちらの区分で加入する必要があります(厚生労働省の特別加入のパンフレット)。厚生労働省は、自動車や原動機付自転車を使ったフードデリバリーを、フリーランスの区分ではなく運送の区分の例として挙げています。厚生労働省のパンフレットは、他の区分の事業に特別加入していない場合は労災保険給付を受けることはできないとしています。配達員が「フリーランスの特別加入」だけに入っていても、配達の業務は補償されません。
5. 契約が業務委託でも「労働者」と判断される場合
労働者かどうかは、契約の名前ではなく、働き方の実態で判断されます。厚生労働省は、請負や委任といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、仕事の進め方、報酬などから総合的に判断するとしています。
判断の中心は「使用従属性」です。仕事の依頼を断る自由があるか、仕事の進め方について指揮監督を受けているか、勤務場所や時間が拘束されているか、報酬が働いた時間に応じて支払われているか、といった点を見ます(労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日))。実態として労働者と判断されれば、特別加入していなくても、通常の労災保険の対象になります。
6. 事故の相手方への請求
労災保険とは別に、事故の相手方に損害賠償を求めることもできます。相手が自動車の場合、自動車を自分のために運行させていた人は、その運行で他人をけがさせたとき、原則として損害を賠償する責任を負います(自動車損害賠償保障法3条)。相手方の自賠責保険や任意保険への請求を検討することになります。
労災保険の給付と、相手方からの損害賠償は、同じ損害について二重に受け取れるわけではありません。事故が第三者の行為によって起き、国が労災保険の給付をしたときは、国はその給付の額の限度で、被災者が相手方に対して持つ損害賠償の請求権を取得します(労働者災害補償保険法12条の4第1項)。反対に、先に相手方から同じ損害について賠償を受けたときは、国はその額の限度で給付をしないことができます(同条2項)。どちらを先に請求するか、示談の内容をどうするかは、受け取れる額に影響します。示談の前に、労災保険の給付との関係を確認しておくことが大切です。
7. 配達員に仕事を委託している会社が確認すべきこと
個人の配達員に業務を委託している会社にも、確認しておくべき点があります。
1つ目は、契約の実態です。勤務時間を指定し、細かく指示を出し、断ることを認めていないなど、実態が雇用に近いと、労働者と判断される可能性があります。その場合、会社は労災保険をはじめとする労働法上の責任を負うことになります。
2つ目は、フリーランス法の義務です。業務委託をした事業者は、給付の内容、報酬の額、支払期日などを、書面や電子メールなどで直ちに明示しなければなりません(フリーランス法3条1項)。従業員を使用する事業者などは、ハラスメントの相談に応じる体制の整備などの措置が必要で(同法14条1項)、継続的な業務委託を解除するときは、原則として30日前までに予告しなければなりません(同法16条1項)。
3つ目は、事故が起きたときの対応です。配達員から事故の報告があったときに、誰が受け付け、どの情報を記録するかを決めておくと、後の紛争を防ぎやすくなります。
今すぐできること
・(配達員の方)自分が運送の区分で特別加入しているか、加入している特別加入団体と承認日を確認する。
・(配達員の方)事故の日時、場所、相手方の氏名・連絡先・車両番号、警察への届出の有無を記録する。
・(配達員の方)通院した医療機関の領収書や診断書を保管する。
・(委託する会社)配達員との契約書と、実際の指示の出し方・勤務時間の決め方が一致しているか確認する。
・(委託する会社)フリーランス法3条の取引条件の明示ができているか確認する。
・(委託する会社)事故の報告を受けたときの窓口と記録の手順を決める。
弁護士に相談すべきタイミング
・事故でけがをしたが、特別加入していなかった。
・会社から細かく指示を受けて働いており、自分は労働者ではないかと考えている。
・事故の相手方や保険会社との示談の話が進まない。
・(会社の方)配達員から、労働者として扱うべきだったという請求や、事故の補償を求める書面が届いた。
・(会社の方)配達員との契約や指示の出し方が、雇用と判断されないか見直したい。
よくあるご質問
Q. 事故の後に特別加入すれば、その事故も補償されますか?
補償されません。特別加入による保険の対象は、加入の承認があった日からです(労働者災害補償保険法35条1項2号)。配達を始める前に加入しておく必要があります。
Q. 配達先へ向かう途中ではなく、自宅から配達エリアへ向かう途中の事故は対象になりますか?
運送の事業で特別加入した人は、通勤中の事故は対象外です(同法35条1項、同法施行規則46条の22の2)。どこからが業務中にあたるかは、事故の状況によって判断されます。
Q. 「フリーランスの特別加入」に入っていれば、配達中の事故も補償されますか?
補償されません。厚生労働省は、他の特別加入の区分にあたる業務は、そちらの区分で加入する必要があるとしています。配達の業務は、運送の区分で加入するのが原則です。
Q. 業務委託契約でも、労働者として労災が認められることはありますか?
あります。労働者かどうかは、契約の形式や名称にかかわらず、指揮監督の有無や報酬の性格など、働き方の実態から総合的に判断されます(厚生労働省、労働基準法研究会報告)。実態が労働者であれば、通常の労災保険の対象になります。
FREE CONSULTATION
労働問題のご相談は、初回30分無料です
- ・日本・ニューヨーク州の弁護士 阿部祐介が担当します
- ・オンライン(Zoom等)・来所(東京・大手町)どちらも可
- ・日本語・英語のどちらでもご相談いただけます
※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。
