Q.所有・管理する物件で人が亡くなりました。次の借主や買主に告げる必要はありますか?事故物件の告知義務と国交省ガイドラインを貸主・不動産会社向けに解説

A.

自然死や日常生活での不慮の死は原則として告知不要です。それ以外の死や特殊清掃をした場合は、相手の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるときは告げる必要があり、賃貸では概ね3年が経てば原則不要です。聞かれたら期間にかかわらず告げます(国交省ガイドライン)。

詳しく見る ▶
過去に人が亡くなった物件でも、老衰や病気による自然死や、転倒・誤嚥などの日常生活の中での不慮の死であれば、原則として告げなくてもよいとされています(国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」)。一方、それ以外の死や、発見が遅れて特殊清掃が行われた場合は、借主・買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるときは告げる必要があります。賃貸では、発生(発覚)から概ね3年が経てば原則として告げなくてもよいとされていますが、借主から聞かれた場合は経過期間にかかわらず告げる必要があります。宅地建物取引業者が重要な事実を故意に告げないことは法律で禁じられ、刑事罰の対象にもなります(宅地建物取引業法47条1号ニ・79条の2)。 こんな場面で問題になります ・所有する賃貸マンションの一室で入居者が亡くなり、次の募集で何を伝えるべきか迷っている。 ・孤独死が発見まで時間がかかり、特殊清掃と内装の入替えをした。 ・仲介を依頼された物件について、売主が「何もなかった」と言うが、近所で噂を聞いた。 ・社宅や投資用に購入した物件で、過去の事案を知らされていなかったことが後から分かった。 1. 誰に、どの法律で告知の義務があるか 宅地建物取引業者は、売買・交換・貸借の契約について勧誘をする際、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはなりません(宅地建物取引業法47条1号ニ)。違反すると、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科となります(同法79条の2)。監督官庁による指示や1年以内の業務停止の対象にもなります(同法65条1項・2項)。 この法律が対象とするのは、売買・交換や、売買・交換・貸借の代理・媒介を業として行う者です(同法2条2号)。自社の物件を自ら貸すだけの貸主は、宅地建物取引業者には当たりません。 ただし、貸主・売主も告知と無関係ではありません。ガイドラインは、過去の裁判例では、取引の目的、事案の内容、発生からの時間の経過、近隣住民の周知の程度などを考慮して、信義則上の告知義務の有無が判断されていると説明しています。民法は、権利の行使と義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならないと定めています(民法1条2項)。 2. 国土交通省のガイドラインの位置づけ 国土交通省は2021年(令和3年)10月8日、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負う義務の解釈について、裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と考えられるものを整理したものです。 対象は、住宅として使われる居住用不動産です。オフィスなどは、契約判断への影響が一様でないことから対象外とされています。 ガイドラインに沿わなかったことだけで直ちに法律違反になるわけではありません。ただし、トラブルになった場合、行政庁の監督ではガイドラインが参考にされます。また、ガイドラインに沿って対応しても、民事上の責任を必ず免れるものではないとされています。 3. 告げなくてもよい場合 ガイドラインは、原則として告げなくてもよい場合を三つ示しています。 ・自然死・日常生活の中での不慮の死:老衰や持病による病死、自宅の階段からの転落、入浴中の溺死、食事中の誤嚥など。賃貸・売買のいずれも原則として告げなくてもよい。ただし、長期間放置されて特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は除く。 ・賃貸で、概ね3年が経過した場合:上記以外の死、または特殊清掃等が行われた死について、発生(特殊清掃等の場合は発覚)から概ね3年が経過した後は、原則として借主に告げなくてもよい。借主が日常使う共用部分(玄関・エレベーター・廊下など)も同じ扱い。 ・隣の住戸や、日常使わない共用部分での事案:賃貸・売買のいずれも、原則として告げなくてもよい。 二つ目と三つ目には、事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案は除くという留保があります。また、売買には「3年」の目安はありません。 4. 告げなければならない場合と、告げる内容 上記以外で、相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告げなければなりません。さらに、経過期間や死因にかかわらず、借主・買主から事案の有無を聞かれた場合や、社会的影響の大きさから把握しておくべき特段の事情があると認識した場合も、告げる必要があります。 告げる内容は、発生時期(特殊清掃等の場合は発覚時期)、場所、死因、特殊清掃等が行われた場合はその旨です。死因は自然死・他殺・自死・事故死などの別を指し、不明ならその旨を告げます。亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に配慮し、氏名・年齢・住所・家族構成や具体的な死の態様・発見状況などを告げる必要はないとされています。告げる際は、書面の交付などによることが望ましいとされています。 5. 調査はどこまで必要か 宅地建物取引業者は、通常の情報収集を行う義務を負います。ただし、事案を疑わせる特段の事情がなければ、自ら近隣への聞き込みやインターネットでの調査をする義務まではないとされています。 媒介する業者は、売主・貸主に告知書(物件状況等報告書)などへの記載を求めることで、通常の調査義務を果たしたものとされます。後で記載のない事案が分かっても、業者に重大な過失がない限り、調査は適正だったとされます。一方、告知書に記載がなくても、事案を疑う事情があるときは、売主・貸主に確認する必要があります。ガイドラインは、契約後・引渡しまでに知った場合にも告知義務があるとした裁判例があることにも注意を促しています。 6. 告げなかった場合の民事上の責任 告げるべき事実を告げずに契約した場合、相手方からは次のような主張がありえます。 ・錯誤による取消し(民法95条)。契約の基礎とした事情が表示されていたことなどの要件があります。 ・詐欺による取消し(民法96条)。 ・売買であれば、契約の内容に適合しない目的物として、追完・代金減額・損害賠償・解除の請求(民法562条〜564条)。これらの規定は、賃貸借などの有償契約にも、性質が許さない場合を除いて準用されます(民法559条)。 ・債務不履行による損害賠償(民法415条)や契約の解除(民法541条・542条)。 どの主張が認められるか、損害額がいくらになるかは、事案の内容や契約の経緯によって個別に判断されます。 7. 何でも告げればよいわけではない 告知を怠るリスクを避けるため、過去の死をすべて告げる対応をとる会社もあります。ガイドラインは、こうした対応が負担として過大であると指摘されていること、また、亡くなった理由を問わず告知の対象になると考えた貸主が、単身の高齢者の入居を敬遠する傾向があるとの指摘があることを、策定の背景として挙げています。 告げる場合でも、亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏への配慮が求められます。ガイドラインは、近隣住民への聞き込みやインターネット・過去の報道の調査について、正確性の確認が難しく、特に慎重な対応を要するとしています。告知の範囲は、ガイドラインの基準と相手方の意向をふまえて、物件ごとに判断することになります。 今すぐできること ・管理物件で人が亡くなった場合に、発生日・場所・死因(分かる範囲)・特殊清掃の有無を記録する社内の手順を決める。 ・賃貸の募集時に使う告知の文面と、告知した日時・方法を残す書式を用意する。 ・仲介会社に物件を任せる際は、告知書に過去の事案を正確に記載する。分からない点は「不明」と書く。 ・概ね3年の目安が近づいた事案でも、問い合わせを受けた場合は告げる運用にする。 ・社宅・投資用の物件を買う前に、告知書の内容を確認し、気になる点は書面で質問する。 弁護士に相談すべきタイミング ・借主や買主から、告知がなかったとして解約・減額・損害賠償を求める書面が届いた。 ・事件性や報道の有無などから、告げるべきか、いつまで告げるべきかの判断がつかない。 ・購入した物件に告知されていない事案があったことが分かり、売主や仲介会社に請求を考えている。 ・監督官庁から、告知に関して事情の聴取や報告を求められた。 よくあるご質問 Q. 入居者が病気で亡くなった部屋は、次の借主に告げる必要がありますか? 原則として告げなくてもよいとされています。ただし、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームを行った場合は、告知を検討する対象になります。借主から聞かれた場合は、告げる必要があります。 Q. 賃貸の「3年」は、売買にも当てはまりますか? 当てはまりません。ガイドラインの「概ね3年」は、賃貸借取引についての目安です。売買では期間の目安が示されていないため、相手方の判断に重要な影響を及ぼすかどうかで判断することになります。 Q. 貸主が自分で入居者を募集する場合も、ガイドラインに従う必要はありますか? ガイドラインは宅地建物取引業者の義務を整理したもので、自ら貸す貸主は直接の対象ではありません。ただし、裁判例では貸主・売主にも信義則上の告知義務が問題になるとされています。ガイドラインの考え方は、貸主の対応を考える際にも参考になります。 Q. オフィスや店舗の物件にも、ガイドラインは適用されますか? 適用されません。ガイドラインは居住用不動産を対象とし、オフィスなどは契約判断への影響が一様でないため対象外としています。取引当事者の意向を踏まえて適切に対処する必要があるとされています。

FREE CONSULTATION

不動産のご相談は、初回30分無料です

  • ・日本・ニューヨーク州の弁護士 阿部祐介が担当します
  • ・オンライン(Zoom等)・来所(東京・大手町)どちらも可
  • ・日本語・英語のどちらでもご相談いただけます
無料相談の日時を選ぶ
※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。

関連するQ&A

この分野の無料ツール

弁護士 阿部祐介

初回30分の無料相談を承ります

日本法・ニューヨーク州法の弁護士 阿部祐介が対応します。日本語・英語、オンラインでも承ります。

相談を予約する