労働問題弁護士監修済

Q.会社のSlackで同僚の悪口を書いたDMのスクリーンショットが社内に拡散され懲戒処分を受けました。DMは「公然性」がないのでは?

A.

1対1のDMは「公然と」に当たらないことが多く、名誉毀損罪や侮辱罪にはなりにくいです。ただし就業規則の懲戒事由に当たれば処分はあり得ます。重すぎる処分は無効になることがあります。

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1対1のDMで同僚の悪口を書いただけなら、名誉毀損罪や侮辱罪の要件である「公然と」(不特定または多数の人が認識できる状態)に当たらないことが多いです。ただし、少数の相手に話しただけでも、話が広まる状態だったとして名誉毀損罪の成立を認めた最高裁判例があり、DMだから必ず問題にならないとはいえません。また、刑事上の罪にならなくても、就業規則の懲戒事由に当たれば懲戒処分の対象になり得ます。処分が重すぎる場合は、懲戒権の濫用として無効になることがあります(労働契約法15条)。 こんな場面で問題になります ・社内チャットのDMで上司や同僚の悪口を書いたところ、相手のスクリーンショットで社内に広まった。 ・DMの内容を理由に、けん責や減給、出勤停止などの処分を言い渡された。 ・人事担当として、DMの画像を受け取ったが、処分してよいのか、どの程度の処分が妥当か迷っている。 ・悪口を書かれた社員から、会社として対応してほしいと申し出があった。 刑事上の名誉毀損・侮辱と「公然性」 名誉毀損罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に(刑法230条)、侮辱罪は事実を示さずに「公然と人を侮辱した」場合に成立します(刑法231条)。法務省は、「公然と」を、不特定または多数の人が認識できる状態と説明しています。 1対1のDMは、通常、特定の1人に向けた通信です。そのため、多くの場合は「公然と」に当たりにくいといえます。 ただし、最高裁は、特定の少数の人に問われるままに話した事案でも、その結果うわさが広まったことなどから、不特定多数の人が知り得る状態で事実を示したとして名誉毀損罪の成立を認めています(最高裁昭和34年5月7日判決・刑集13巻5号641頁)。DMの相手や内容、送った状況によっては、広まることが予想できたと評価される可能性があります。 民事上の責任(損害賠償) 悪口を書かれた同僚から、不法行為として損害賠償を求められる可能性もあります。社会的評価を下げる内容でなくても、本人の名誉感情(自分の価値について持つ感情)を傷つけるものとして、問題になることがあります。 ただし、最高裁は、掲示板の書き込みについて発信者情報の開示が争われた事件で、侮辱的な表現が名誉感情を侵害するにとどまる場合、それが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人格的利益の侵害が認められ得るとしています(最高裁平成22年4月13日判決・民集64巻3号758頁)。どの程度の表現か、何回繰り返したか、誰に伝わったかなどで結論が変わります。 懲戒処分が有効になる条件 会社が懲戒処分をするには、あらかじめ就業規則で懲戒の種類と事由を定めておく必要があります。その就業規則は、従業員に周知されていなければ拘束力を持ちません(最高裁平成15年10月10日判決・フジ興産事件)。 そのうえで、懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法15条)。 DMの悪口について、実務で見られやすいのは次のような点です。 ・就業規則に、職場の秩序を乱す行為や、他の従業員の名誉を傷つける行為などが懲戒事由として書かれているか。 ・悪口の内容と回数。一度の愚痴か、執拗に繰り返したものか。 ・業務への影響。相手が体調を崩した、チームの業務が止まったなどの事情があるか。 ・処分の重さ。過去に同じような行為をした社員との比較や、本人の反省の有無。 ・手続。本人に事情を説明する機会(弁明の機会)を与えたか。 「公然性がないから懲戒できない」という関係にはありません。刑事上の罪と、会社内の規律違反は別の問題です。一方で、私的なやり取りの内容をどこまで処分の対象にできるかは、就業規則の定めや業務との関係によって判断が分かれます。 会社がDMを見ること・スクリーンショットの拡散 業務用のチャットツールは会社が用意したものですが、会社がDMの中身をどこまで確認できるかは、社内規程でモニタリングの範囲や目的をどう定めているかが重要になります。規程がないまま閲覧すると、別の争いの種になることがあります。 また、スクリーンショットを社内に広めた行為そのものが、職場の秩序の問題になることもあります。人事担当としては、悪口を書いた社員だけでなく、拡散の経緯もあわせて確認しておく必要があります。 今すぐできること (処分を受けた方) ・懲戒処分の通知書を受け取り、処分の理由と根拠になった就業規則の条文を確認する。 ・就業規則を読み、該当する懲戒事由と処分の種類が書かれているか確かめる。 ・DMの全文、送った日時、相手との関係、拡散の経緯をメモに残す。 ・弁明の機会があったか、どのような説明をしたかを記録する。 (人事担当の方) ・就業規則の懲戒事由と、その周知の状況を確認する。 ・DMの原本と拡散の経緯を事実として確定させ、本人と相手の双方から事情を聴く。 ・過去の処分例と比べて、処分の重さが釣り合っているかを検討する。 ・チャットツールのモニタリングに関する社内規程を整備する。 弁護士に相談すべきタイミング ・出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など重い処分を言い渡された、または検討している。 ・悪口を書かれた社員から、会社や加害者に対する損害賠償の請求や、警察への相談の話が出ている。 ・処分の理由になった就業規則の規定がはっきりしない、または周知されていたか分からない。 ・スクリーンショットの拡散で、別の社員の行為も問題になっている。 よくあるご質問 Q. DMの悪口は、どんな場合でも犯罪になりませんか? A. 1対1のDMは「公然と」に当たらないことが多いですが、相手や状況によっては広まることが予想できたと評価される可能性があります(最高裁昭和34年5月7日判決参照)。内容によっては、別の罪が問題になることもあります。 Q. 就業規則に「悪口」と書いていなくても懲戒されますか? A. 懲戒には、就業規則に懲戒の種類と事由が定められている必要があります。「職場の秩序を乱す行為」など一般的な規定に当たるかどうかが争点になるため、規定の文言と行為の内容を照らし合わせて判断します。 Q. 処分が重すぎると思うときは、どうすればよいですか? A. 懲戒は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効です(労働契約法15条)。処分通知や就業規則、DMの内容などをそろえたうえで、早めに弁護士に相談してください。
※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。

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