労働問題弁護士監修済

Q.育休から復帰する従業員を元のポジションに戻さず、別の部署や倉庫整理などに配置転換してもよいですか?不利益取扱い(マタハラ・パタハラ)になる場合を人事担当者向けに解説

A.

配置転換そのものは直ちに違法ではありませんが、育休の申出・取得を理由とする不利益な配置の変更は禁止です(育児・介護休業法10条)。厚労省の指針は原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮することを求めており、通常の異動ルールで説明できない配置で相当程度の不利益を与えれば不利益取扱いに当たります。

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育休から復帰する従業員を、元の仕事と違う部署や職務に配置すること自体は、直ちに違法ではありません。ただし、育児休業の申出・取得を理由とする「不利益な配置の変更」は禁止されています(育児・介護休業法10条)。厚生労働省の指針は、育休後は原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮することを会社に求めています。通常の人事異動のルールでは説明できない配置で、本人に相当程度の経済的・精神的な不利益を与えれば、不利益取扱い(いわゆるマタハラ・パタハラ)と判断されます。 こんな場面で問題になります ・育休中に後任を置いたため、復帰する従業員の元のポストが埋まっている。 ・復帰後は時短勤務になるので、責任の重い営業職から補助的な事務や倉庫整理に移したい。 ・管理職だった従業員を、復帰を機に役職のない担当者として戻したい。 ・本人から「育休を取ったから外されたのではないか」と相談窓口に申告があった。 1. 育休を理由とする不利益取扱いの禁止 会社は、従業員が育児休業の申出をしたことや、育児休業をしたことなどを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(育児・介護休業法10条)。厚生労働省の指針によれば、この「不利益な取扱い」には、解雇だけでなく配置の変更も含まれます。 厚生労働省の指針(平成21年厚生労働省告示第509号)は、不利益な取扱いの例として、降格、減給、昇進・昇格の人事考課での不利益な評価と並んで、「不利益な配置の変更を行うこと」を挙げています。業務に従事させないことや、専ら雑務に従事させることは「就業環境を害すること」に当たるとしています。 妊娠・出産や産前産後休業を理由とする不利益取扱いも、別に禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項)。育休の取得が女性従業員の産休に続く場合は、両方の規定が問題になります。 2. 「原職または原職相当職」への復帰の配慮 会社は、育児休業後の就業が円滑に行われるよう、従業員の配置その他の雇用管理に関して必要な措置を講ずるよう努めなければなりません(育児・介護休業法22条3項)。 これを受けて指針は、育児休業後は「原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること」としています。さらに、育休を取る従業員以外の配置その他の雇用管理も、この点を前提にして行う必要があるとしています。 つまり、後任を置くこと自体は問題ありませんが、「後任が定着したから元の仕事には戻せない」という発想は、指針の考え方と逆になります。休業に入る段階で、復帰時の配置をどうするかを決めておくことが大切です。 3. どんな配置転換が「不利益」と判断されるか 指針は、配置の変更が不利益な取扱いに当たるかどうかを、次の事情を総合的に比べて判断するとしています。 ・配置の変更前後の賃金その他の労働条件 ・通勤事情 ・本人の将来に及ぼす影響 そのうえで、「通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更」によって、本人に相当程度の経済的または精神的な不利益を生じさせることは、不利益な配置の変更に当たるとしています。 たとえば、営業の第一線にいた従業員を、復帰を機に倉庫整理だけの仕事に就かせる場合です。賃金が変わらなくても、職務の内容や将来のキャリアへの影響が大きく、通常の異動として説明しにくければ、不利益取扱いと判断されやすくなります。 逆に、全社的な組織改編で同じ立場の従業員が一斉に異動し、その一環として配置する場合は、通常の人事異動のルールで説明できる余地があります。ポイントは、育休を取らなかった従業員にも同じ基準を当てはめているかどうかです。 4. 時短勤務と配置の関係 3歳未満の子を育てる従業員(育児休業をしていない人)には、原則として所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)を設けなければなりません(育児・介護休業法23条1項。労使協定で一部の従業員を対象外にできる場合があります)。復帰後に時短勤務を選ぶ従業員は多くいます。 指針は、短時間勤務の対象となる業務に就いている従業員を、申出をした日から適用終了予定日までの間に、労使協定で短時間勤務の対象外としている業務へ転換させることは、不利益な配置の変更に当たる可能性が高いとしています。 「時短なら今の仕事は無理だろう」と会社側で決めつけて配置を変えるのではなく、業務の分担や引継ぎの方法を本人と話し合うことが求められます。 5. 職場の言動への対応と、違反した場合の行政対応 会社は、育児休業などの制度の利用に関する上司・同僚の言動で就業環境が害されないよう、相談に応じる体制を整えるなどの措置を講じなければなりません(育児・介護休業法25条1項)。相談したことを理由とする不利益取扱いも禁止されています(同条2項)。 従業員は、都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めることができ、局長は助言・指導・勧告を行えます(同法52条の4第1項)。紛争調整委員会による調停を申請することもできます(同法52条の5第1項)。厚生労働大臣は、会社に報告を求め、助言・指導・勧告をすることができます(同法56条)。10条に違反し、勧告に従わない場合は、その旨を公表できるとされています(同法56条の2)。 6. 実務での注意点 ・復帰後の配置を決めるときは、「なぜこの部署・この職務なのか」を、育休と関係のない業務上の理由で説明できるか確認します。説明は書面に残します。 ・本人が配置転換に「同意した」場合でも、説明が不十分なまま同意を取り付けたと見られると、争いになります。変更前後の賃金・職務・将来の見通しを具体的に示し、考える時間を設けます。 ・人事評価では、休業期間を超えて昇進・昇格の選考対象から外す制度や、実際には働いていない期間がないのに休業の申出をしたことだけで不利に評価する扱いは、指針で不利益な評価に当たるとされています。 ・復帰前の面談で、本人の希望(時短勤務の有無、担当業務、通勤)を聞き取り、記録しておくと、配置の合理性を説明しやすくなります。 7. 配置を決めるときの確認の順番 復帰者の配置を決めるときは、次の順番で確認すると判断がぶれにくくなります。 まず、原職に戻せるかを検討します。戻せるなら原職に戻すのが基本です。次に、原職がなくなった・縮小したなど、戻せない業務上の理由があるかを確認します。その理由は、育休を取っていない従業員の異動にも同じように当てはまるものである必要があります。 そのうえで、原職相当職を探します。賃金、役職、職務の水準、勤務場所が元の仕事と大きく変わらない配置です。最後に、変更の内容と理由を本人に説明し、意見を聞き、記録を残します。この順番を飛ばして「空いている仕事に入れる」と、不利益な配置の変更と判断される危険が高まります。 今すぐできること ・育休に入る従業員ごとに、復帰時の配置(原職か原職相当職か)を休業開始前に決め、本人に伝える。 ・後任の配置は「期間限定」「復帰後は元の担当に戻す」ことを前提に組む。 ・復帰前に面談を行い、時短勤務の希望や担当業務について話し合った内容を記録する。 ・原職に戻せない場合の判断基準(組織改編・事業縮小など)を人事で文書にし、育休を取っていない従業員にも同じ基準を当てはめているか確認する。 ・管理職に、育休取得者の配置や評価で禁じられている扱いを研修で周知する。 弁護士に相談すべきタイミング ・復帰する従業員を、元の職務と大きく異なる仕事や下位の役職に配置することを検討している。 ・本人が新しい配置に納得しておらず、書面や相談窓口で異議を申し立てている。 ・労働局から助言・指導の連絡や、紛争解決の援助・調停の案内が届いた。 ・本人の代理人弁護士や労働組合から、配置転換の撤回や損害賠償を求める通知が届いた。 よくあるご質問 Q. 育休中の後任をそのまま残し、復帰者を別の部署に配置してもよいですか? 直ちに違法ではありませんが、指針は原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮すること、他の従業員の配置もその前提で行うことを求めています。別部署にする場合は、賃金や職務の水準、通勤、将来への影響が不利にならないか、通常の異動として説明できるかを確認してください。 Q. 「原職相当職」とは、どの程度同じ仕事を指しますか? 法律や指針に一律の定義はありません。実務では、職務の内容、役職、賃金などの労働条件、勤務場所が、元の仕事と比べて大きく変わらないかで判断することになります。迷う場合は、本人に事前に説明し、意見を聞いたうえで決めるのが安全です。 Q. 本人が時短勤務を希望しています。仕事を軽くするために配置を変えてもよいですか? 本人の希望に基づき、合意のうえで業務を調整することは可能です。ただし、申出から適用終了予定日までの間に、労使協定で短時間勤務の対象外としている業務へ転換させることは、不利益な配置の変更に当たる可能性が高いとされています。本人と話し合い、内容を記録してください。 Q. 復帰を機に役職を外すことはできますか? 育休の申出や取得を理由に役職を外すことは、指針が不利益な取扱いの例に挙げる「降格させること」に当たります。組織改編で役職そのものがなくなったなど、育休と関係のない理由があり、同じ立場の他の従業員にも同じ扱いをしているかが問われます。 Q. 男性従業員が育休を取った場合も同じですか? 同じです。育児・介護休業法10条の不利益取扱いの禁止は、性別に関係なく、育児休業の申出や取得をしたすべての従業員に適用されます。男性の育休取得を理由とする不利益な配置転換も禁止されています。

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