改正の背景
近年、自動車と自転車の接触・衝突事故が深刻な社会問題となっています。警察庁の統計によると、自転車関連の交通事故のうち、自動車との事故が大きな割合を占めており、特に追い越し時の接触事故が後を絶ちません。
欧米諸国では、すでに自動車が自転車を追い越す際の最低側方間隔を法律で定める国が多く(フランス1.5メートル、ドイツ1.5メートル、イギリス1.5メートルなど)、日本でも同様の規制を求める声が高まっていました。
こうした背景を受け、2024年の道路交通法改正(令和6年法律第55号)により、自動車が自転車の右側を通過する際の側方間隔確保義務と減速義務が新設され、2026年4月1日から施行されています。
新ルールの内容
自動車側の義務
改正道路交通法第18条の規定により、自動車等が自転車等(自転車・特定小型原動機付自転車・軽車両)の右側を通過する際、以下の義務が課されます。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 十分な間隔の確保 | 自転車との間に十分な側方間隔を空けて通過 |
| 間隔不足時の減速 | 十分な間隔が取れない場合、安全な速度まで減速して通過 |
「十分な間隔」の目安
法律の条文には具体的な数値は明記されていませんが、警察庁が示す目安は以下のとおりです。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 側方間隔 | 少なくとも1メートル程度 |
| 推奨間隔 | 1.5メートル以上が望ましい |
| 減速時の速度 | 時速20〜30km程度 |
なお、これらはあくまで目安であり、道路の幅員、交通量、天候、自転車の走行状態などの実際の状況に応じて、より広い間隔やさらなる減速が必要となる場合があります。
重要なポイント:「追い越し」だけでなく「追い抜き」も対象
従来の道路交通法では、「追い越し」(車線変更を伴うもの)についてのみ規定がありましたが、今回の改正では車線変更を伴わない「追い抜き」(右側通過)も規制対象となっています。つまり、同一車線内で自転車の横をすり抜ける行為にも、側方間隔の確保が必要です。
自転車側の義務
改正法では、自動車だけでなく自転車側にも新たな義務が課されています。
自動車等が右側を通過しようとする場合、自転車はできる限り道路の左側端に寄って通行しなければなりません。これにより、自動車が十分な間隔を確保しやすくなることが期待されています。
違反した場合の罰則
自動車側の罰則
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 刑事罰 | 3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金 |
| 違反点数 | 2点 |
| 反則金(普通車) | 7,000円 |
| 反則金(大型車) | 9,000円 |
| 反則金(二輪車) | 6,000円 |
自転車側の罰則
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 刑事罰 | 5万円以下の罰金 |
| 反則金 | 5,000円 |
2026年4月1日からは自転車にも交通反則通告制度(青切符)が適用されるため、自転車の違反にも反則金が科されることになります。
事故が起きた場合の法的責任
過失割合への影響
自動車が十分な側方間隔を取らずに自転車を追い越し、事故が発生した場合、自動車側の過失割合が大幅に高くなることが予想されます。改正法の義務違反が明確であれば、自動車側に80〜100%の過失が認定される可能性もあります。
損害賠償請求
自転車側が被害を受けた場合、以下の損害賠償を請求できます。
- 治療費・通院費: 実費全額
- 休業損害: 仕事を休んだ期間の収入補償
- 慰謝料: 入通院慰謝料・後遺障害慰謝料
- 逸失利益: 後遺障害が残った場合の将来の収入減少分
実務上の注意点
ドライバーが気をつけること
- 狭い道路では無理に追い越さない: 間隔が取れない場合は自転車の後ろで待つ
- 速度を十分に落とす: 間隔が1メートル未満の場合、時速20〜30kmまで減速
- ドアミラーだけでなく目視確認: 自転車との距離を正確に把握する
- 悪天候時はより慎重に: 雨天時は自転車がふらつきやすいため、より広い間隔が必要
自転車に乗る方が気をつけること
- 車道の左側端を走行: 自動車が通過しやすいよう左寄りを意識
- ふらつき走行を避ける: イヤホン・スマホ操作をしながらの走行は厳禁
- 後方確認の習慣: 追い越してくる車両の有無を意識する
- ヘルメットの着用: 2023年4月から努力義務、2026年4月からはあごひも着用も義務化
交通事故に遭ったら
自転車で走行中に側方間隔が不十分な自動車に接触された場合は、すぐに警察に届け出ることが重要です。改正法の施行により、自動車側の義務違反が明確になったため、被害者としての権利主張がしやすくなっています。事故後の対応に不安がある場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。