労働問題弁護士監修済

Q.従業員を社会保険に加入させていないと違法ですか?パート・アルバイトの加入要件(2026年10月の賃金要件撤廃後)

A.

要件を満たす従業員を社会保険に加入させないのは違法です。2026年10月から月額8.8万円の賃金要件はなくなり、週20時間以上が基準になりました。

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加入の要件を満たす従業員を社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入させないことは、法律違反です。法人の事業所は、常時従業員を使用していれば、規模や業種にかかわらず社会保険の適用事業所になります(健康保険法3条3項2号、厚生年金保険法6条1項2号)。パート・アルバイトでも、所定労働時間が正社員の4分の3以上であれば加入の対象です。4分の3未満でも、週20時間以上で学生でなければ、一定規模以上の企業では加入の対象となり、2026年10月1日からは「月額8.8万円以上」という賃金の要件がなくなりました。 こんな場面で問題になります ・パートの従業員から「なぜ自分は社会保険に入っていないのか」と聞かれた。 ・人件費を抑えるため、週の所定労働時間を20時間ぎりぎりに設定しているシフトがある。 ・年金事務所から、加入状況の調査や資料提出の連絡が来た。 ・退職した元従業員から、在職中に社会保険へ加入させてもらえなかったと指摘された。 1. どの会社・事業所が加入しなければならないか 株式会社や合同会社などの法人は、常時従業員を使用する事業所であれば、社会保険の適用事業所です(健康保険法3条3項2号、厚生年金保険法6条1項2号)。業種が何であっても同じです。日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所は「事業主のみの場合を含む」として、代表者1人だけの会社も適用事業所になると案内しています。 個人事業の場合は扱いが違います。製造、建設、運送、販売、金融、医療など法律に列挙された業種で、常時5人以上の従業員を使用する事業所が適用事業所です(健康保険法3条3項1号、厚生年金保険法6条1項1号)。それ以外の個人事業所も、従業員の2分の1以上の同意を得て認可を受ければ、任意に適用事業所になれます(厚生年金保険法6条3項・4項)。 2. どの従業員が加入の対象になるか 適用事業所に使用される人は、原則として健康保険の被保険者になります(健康保険法3条1項)。厚生年金保険は、70歳未満の人が被保険者です(厚生年金保険法9条)。正社員かパートかという呼び名では決まりません。 加入の対象から外れるのは、法律で定められた人に限られます。たとえば、2か月以内の期間を定めて雇われ、その期間を超えて使用される見込みがない人です(健康保険法3条1項2号ロ、厚生年金保険法12条1号ロ)。ただし、当初の期間を超えて引き続き使用されるようになれば、加入の対象になります。 3. パート・アルバイトの加入要件 短時間で働く人は、次の2段階で考えます。 第1に、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、いずれも同じ事業所の通常の労働者の4分の3以上であれば、加入の対象です。これは企業の規模に関係ありません。 第2に、4分の3に届かない人でも、次の要件をすべて満たせば加入の対象になります(健康保険法3条1項9号、厚生年金保険法12条5号、厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」)。 ・週の所定労働時間が20時間以上であること ・学生ではないこと(定時制・通信制の学生などは対象になります) ・2か月を超えて雇用される見込みがあること ・勤め先が、一定の従業員数以上の企業であること(下の4.) 以前はこれに加えて「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金の要件がありました。この要件は、令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、2026年10月1日に撤廃されました(日本年金機構)。現在は、収入の額ではなく、週20時間以上かどうかで判断されます。 なお、使用者が最低賃金の減額の特例許可を受けて働いている人で、所定内賃金が月額8.8万円未満の人は、原則として加入の対象外です。本人の申出があれば加入できます(日本年金機構)。 4. 企業の規模の要件と、今後の拡大の予定 週20時間以上の短時間労働者が加入の対象になるのは、従業員数が一定以上の企業です。厚生労働省は、次のとおり段階的に対象を広げるとしています。 ・2027年9月まで:従業員数51人以上の企業 ・2027年10月から:36人以上の企業 ・2029年10月から:21人以上の企業 ・2032年10月から:11人以上の企業 ・2035年10月から:10人以下の企業も対象 ここでいう従業員数は、厚生年金保険の加入対象者の数です。1年のうち6か月以上、基準を超えることが見込まれる企業が対象になります(厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」)。パート・アルバイトの人数そのものではない点に注意が必要です。 基準に満たない企業でも、申出によって短時間労働者を加入させることができます(任意特定適用事業所)。 5. 加入させないと、会社にどんな責任が生じるか 事業主は、従業員が加入の要件を満たしたとき、資格取得の届出をしなければなりません(健康保険法48条、厚生年金保険法27条)。健康保険の資格取得届は、事実があった日から5日以内に提出します(健康保険法施行規則24条1項)。 正当な理由なく届出をしなかったり、虚偽の届出をしたりした事業主は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(健康保険法208条1号、厚生年金保険法102条1項1号)。 従業員の側も、加入の資格があることの確認を、いつでも請求できます(健康保険法51条1項、厚生年金保険法31条1項)。会社が届出をしなくても、従業員からの請求や年金事務所の調査で加入が確認されることがあります。 6. さかのぼって加入するときの保険料 保険料は、会社と従業員が半分ずつ負担します(健康保険法161条1項、厚生年金保険法82条1項)。ただし、国に納める義務を負うのは会社で、従業員の負担分もまとめて納めます(健康保険法161条2項、厚生年金保険法82条2項)。 保険料を徴収する権利は、2年で時効により消滅します(健康保険法193条1項、厚生年金保険法92条1項)。このため、さかのぼって加入するときは、過去2年分の保険料の納付を求められることがあります。 注意したいのは、従業員の負担分の扱いです。給与から控除できるのは、原則として前月分の保険料に限られます(健康保険法167条1項、厚生年金保険法84条1項)。過去の分をまとめて給与から天引きすることはできないため、従業員の負担分をどう精算するかを、本人と話し合って決める必要があります。結果として、会社が想定以上の負担を抱えることもあります。 7. 「本人が加入を望まない」場合 従業員から「手取りが減るので加入したくない」と言われることがあります。しかし、加入の要件を満たせば、加入は義務です。本人の希望や同意によって、加入しないことを選べる仕組みではありません。 手取りへの影響を避けたい従業員とは、所定労働時間そのものを見直すかどうかを話し合うことになります。その場合も、実際の働き方と契約上の所定労働時間がかけ離れていないかに注意が必要です。厚生労働省は、残業時間は原則として所定労働時間に含めないものの、常に残業が発生している場合などは含めることがあるとしています。 今すぐできること ・パート・アルバイト全員について、週の所定労働時間と1か月の所定労働日数を一覧にする。 ・正社員の所定労働時間と比べ、4分の3以上の人が加入しているか確認する。 ・週20時間以上の人について、自社が企業規模の要件に当たるかを、厚生年金保険の加入者数で確認する。 ・2026年10月以降、月額8.8万円未満を理由に加入させていない人がいないか確認する。 ・2027年10月以降の段階的な拡大に、自社がいつ当たるかを確認しておく。 ・雇用契約書の所定労働時間と、実際の勤務時間に大きな差がないか確認する。 弁護士に相談すべきタイミング ・未加入の従業員が複数いることがわかり、さかのぼって加入させる範囲と精算方法を決めたい。 ・年金事務所の調査で、未加入を指摘された。 ・元従業員から、未加入による損害の賠償を求める書面が届いた。 ・所定労働時間を見直したいが、労働条件の不利益変更にならないか不安がある。 よくあるご質問 Q. 社長1人だけの会社でも、社会保険に加入しなければなりませんか? 必要です。日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて適用事業所になると案内しています(健康保険法3条3項2号、厚生年金保険法6条1項2号)。代表者の報酬の有無など個別の事情によって扱いが変わることがあるため、管轄の年金事務所に確認してください。 Q. 2026年10月から、年収106万円の壁はなくなったのですか? 短時間労働者の加入要件のうち、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という要件は、2026年10月1日に撤廃されました(日本年金機構)。現在は、週20時間以上で学生でないことなどの要件で判断します。ただし、企業の規模の要件は2027年9月までは51人以上で、段階的に広がります。 Q. 従業員本人が加入を断った場合でも、加入させる必要がありますか? 必要です。加入の要件を満たせば、本人の希望にかかわらず被保険者になります。会社には資格取得の届出義務があり、届け出ないと罰則の対象です(健康保険法208条1号、厚生年金保険法102条1項1号)。 Q. さかのぼって加入させると、何年分の保険料を払うことになりますか? 保険料を徴収する権利は2年で時効により消滅します(健康保険法193条1項、厚生年金保険法92条1項)。そのため、最大で過去2年分の保険料の納付を求められることがあります。従業員の負担分の精算方法は、別に検討が必要です。

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