【2026年4月】生成AIと肖像権|法務省が検討会設置、無断利用の法的リスクとは
ネット問題最終更新: 2026-04-19約8分で読めます

【2026年4月】生成AIと肖像権|法務省が検討会設置、無断利用の法的リスクとは

この記事のポイント

  • 2026年4月17日、法務省が生成AIによる肖像・声の無断利用に関する有識者検討会を設置(初会合は4月24日)
  • 日本の肖像権は判例法で確立されているが明文規定がなく、AI時代の新たな侵害類型に対応が必要
  • AIによる著名人なりすまし詐欺広告やディープフェイクが社会問題化している
  • 検討会では肖像権・パブリシティー権の侵害基準を事例ごとに明示する方針
  • 企業・クリエイターは生成AIの利用にあたり、他者の肖像・声の無断使用リスクを認識すべき
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検討会設置の背景

2026年4月17日、法務省は生成AIで他人の肖像や声を無断利用した場合の民事責任を整理するため、有識者による検討会を設置しました。初会合は2026年4月24日に開催される予定です。

この検討会が設置された背景には、以下の社会的課題があります。

AIによるなりすまし詐欺広告の横行

著名人の顔写真や動画をAIで加工・生成し、あたかもその著名人が商品やサービスを推薦しているかのような偽の広告がSNSやウェブサイト上に大量に出回っています。被害者は著名人本人だけでなく、広告を信じて商品を購入した一般消費者にも及びます。

ディープフェイクの深刻化

AI技術の急速な進歩により、本物と見分けがつかないレベルのディープフェイク動画の作成が容易になっています。政治家の発言を捏造した動画、一般人を使った不正な動画など、名誉毀損やプライバシー侵害に直結する事案が急増しています。

声のクローン技術

テキスト読み上げAIの進化により、わずかな音声サンプルから特定の人物の声を高精度に再現することが可能になっています。オレオレ詐欺への悪用や、声優・アーティストの権利侵害が懸念されています。

現行の肖像権法理

肖像権とは

肖像権とは、みだりに自己の容貌・姿態を撮影・公表されない権利です。日本の法律には肖像権を明文で定めた規定はありませんが、判例法(最高裁判例)によって確立された権利です。

#### 主要判例

判例内容
京都府学連事件(最大判昭和44年12月24日)「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」と判示し、肖像権の憲法上の根拠(13条)を明確化
「宴のあと」事件(東京地判昭和39年9月28日)プライバシー権の一環として肖像の保護を認めた先駆的判決

肖像権侵害の判断基準

現在の判例法では、肖像権侵害の有無は以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

  1. 撮影・公表の態様(隠し撮りか、公開の場か)
  2. 被撮影者の社会的地位(公人か私人か)
  3. 利用目的(報道目的か、商業利用か)
  4. 被撮影者の精神的苦痛の程度
  5. 公表の必要性と相当性

肖像権の限界

肖像権は絶対的な権利ではなく、表現の自由(憲法21条)報道の自由との調整が必要です。公共の利害に関する事項については、肖像の利用が許容される場合があります。

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パブリシティー権との違い

パブリシティー権とは

パブリシティー権とは、著名人の氏名・肖像等が持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利です。一般人の肖像権が「人格的利益」の保護を目的とするのに対し、パブリシティー権は「財産的利益」の保護を目的とします。

ピンク・レディー事件(最判平成24年2月2日)

最高裁は、パブリシティー権の侵害が認められる場合を以下の3類型に整理しました。

類型内容
独立鑑賞型肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象とする商品等に使用する場合
顧客吸引型商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
広告型肖像等を商品等の広告として使用する場合

肖像権とパブリシティー権の比較

項目肖像権パブリシティー権
保護法益人格的利益(プライバシー)財産的利益(顧客吸引力)
権利主体すべての人主に著名人
法的根拠憲法13条(判例法)不法行為法(判例法)
損害精神的苦痛(慰謝料)経済的損失(使用料相当額等)

生成AIがもたらす新たな法的問題

従来の肖像権法理では対応困難なケース

生成AIの登場により、従来の肖像権・パブリシティー権の法理では対応が困難な新たな類型の問題が発生しています。

#### 1. 「撮影」を伴わない肖像の生成

従来の肖像権法理は「撮影」行為を前提としていますが、生成AIは既存の写真や動画を学習データとして、まったく新しい画像を生成します。これが「撮影」に該当するのか、また学習段階と生成段階のどちらで侵害が成立するのかが不明確です。

#### 2. 「似ているが本人ではない」画像

AIが生成した画像が特定の人物に「似ている」ものの、完全な複製ではない場合、肖像権侵害が成立するのかという問題があります。類似性の判断基準が確立されていません。

#### 3. 声の無断利用

肖像権は主に「容貌・姿態」の保護を対象としてきましたが、AIによる声のクローンに対して肖像権の法理が適用できるかは明確ではありません。

#### 4. 故人の肖像・声の利用

肖像権は一身専属的な権利とされ、本人の死亡により消滅するとされていますが、AIにより故人の肖像や声を再現する行為に対する法的保護のあり方が問われています。

ディープフェイクの法的問題

現行法での対応

ディープフェイクに対しては、現行法上、以下の法的手段が考えられます。

法的根拠内容
民法709条(不法行為)肖像権・名誉権侵害による損害賠償請求
名誉毀損罪(刑法230条)虚偽の動画による名誉毀損
信用毀損・業務妨害罪(刑法233条)企業の信用を毀損するディープフェイク
わいせつ物頒布罪(刑法175条)性的なディープフェイクの拡散
リベンジポルノ防止法性的画像の無断公開
プロバイダ責任制限法発信者情報開示請求による加害者の特定

現行法の限界

しかし、以下の点で現行法は十分に対応できていません。

  • ディープフェイクの作成自体を直接罰する法律がない(公表して初めて問題化)
  • AIが生成した「新規画像」が既存の肖像権法理でカバーされるか不明確
  • 海外サーバーからの配信に対する執行の困難さ
  • 加害者の匿名性が高く、特定が困難

なりすまし詐欺広告の実態

手口の特徴

AIを利用したなりすまし詐欺広告には、以下のような特徴があります。

  1. 著名人の顔写真・動画をAIで加工し、商品・サービスの推薦コメントを付与
  2. SNS広告として少額で大量配信(Facebook、Instagram、YouTube等)
  3. 投資詐欺健康食品詐欺への誘導が多い
  4. ランディングページは短期間で消滅し、証拠保全が困難
  5. 運営者は海外に所在し、国内法の執行が困難

被害の規模

なりすまし詐欺広告による被害は年々拡大しており、消費者庁や国民生活センターへの相談件数は急増しています。著名人本人が「自分は一切関与していない」と声明を出すケースも相次いでいます。

検討会で議論される論点

法務省の検討会では、以下の論点が中心的に議論されると見られます。

1. 肖像権侵害の成立要件の明確化

  • AIが生成した画像・動画に対する「撮影」概念の拡張
  • 類似性の判断基準(どの程度似ていれば侵害か)
  • 学習段階と生成段階の法的評価

2. パブリシティー権の射程拡大

  • AI生成コンテンツへのパブリシティー権の適用
  • 声のパブリシティー権の明確化
  • 故人のパブリシティー権(死後の保護期間)

3. 差止請求権の整備

  • 現行法では肖像権に基づく差止請求の根拠が不明確
  • AI生成コンテンツの事前差止め(生成・公表の禁止)の可否
  • プラットフォーム事業者への削除義務

4. 損害賠償の算定基準

  • 精神的損害の算定方法
  • パブリシティー権侵害における使用料相当額の算定
  • 大量生成・拡散の場合の損害額

企業・クリエイターが注意すべきポイント

企業向け

  1. 生成AIで作成したコンテンツに特定の人物の肖像が含まれていないか確認する
  2. AIツールの利用規約を確認し、生成物の権利関係を把握する
  3. 広告に著名人の肖像を利用する場合は、必ず本人またはマネジメント会社の許諾を得る
  4. 社内のAI利用ガイドラインを策定し、肖像権侵害リスクを周知する
  5. なりすまし広告を発見した場合の通報・削除要請の手順を整備する

クリエイター向け

  1. 他者の容貌に似た画像の生成は慎重に行う — 意図せず特定の人物に似てしまうリスクがある
  2. 声の合成・クローン技術の利用には、元の声の権利者の許諾が必要となる可能性が高い
  3. パロディ・風刺目的であっても、肖像権・パブリシティー権侵害となる場合がある
  4. 生成物をSNSや動画プラットフォームに公開する前に、権利侵害の有無を確認する

今後の見通し

検討会は2026年度中に一定の結論を出すことを目指しています。結論次第では、以下の法改正が行われる可能性があります。

  • 肖像権の明文化(民法改正または新法制定)
  • AI生成コンテンツに対する差止請求権の明確化
  • パブリシティー権の法制化(現在は判例法のみ)
  • ディープフェイク作成自体の刑事罰化

生成AIの技術は日進月歩で進化しており、法制度の整備が追いつかない状況が続いています。今回の検討会は、AI時代における肖像権・パブリシティー権のあり方を根本から見直す重要な一歩となるでしょう。

まとめ

法務省が生成AIと肖像権に関する検討会を設置したことは、AI技術の急速な発展に法制度が対応しようとする重要な動きです。

覚えておくべき3つのポイント:

  1. 生成AIで他人の肖像や声を無断で使用することは、現行法でも肖像権・パブリシティー権の侵害となりうる
  2. しかし、AI特有の問題(撮影なき肖像生成、声のクローン等)に対する法的基準は未整備
  3. 企業・クリエイターは、生成AIの利用にあたり他者の肖像・声の無断使用リスクを十分に認識し、必要な許諾を取得すべき

検討会の議論は2026年4月24日の初会合から本格化します。今後の動向を注視し、必要に応じてAI利用のガイドラインを見直すことをおすすめします。

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※ 本記事は法律の一般的な知識を提供するものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な法的問題については、弁護士にご相談ください。

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