最高裁大法廷への回付決定(2026年3月25日)
2026年3月25日、最高裁判所第3小法廷は、同性カップルが国を相手取って提起した6件の訴訟について、大法廷に回付する決定を行いました。これにより、日本で初めて同性婚をめぐる最高裁の統一的な憲法判断が下される見通しとなっています。
回付の対象となったのは、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡・東京(2次訴訟)の各高裁で審理されてきた一連の「結婚の自由をすべての人に」訴訟です。原告らは、同性同士の婚姻届を受理しない民法・戸籍法の規定が憲法14条(法の下の平等)および憲法24条(婚姻の自由)に違反するとして、国に対して損害賠償を求めてきました。
今崎幸彦最高裁長官は記者会見で「両方の声を公平にすくい取り、公正な判断をする」と述べ、立法府・国民双方の立場を踏まえた慎重な審理を行う姿勢を示しています。
回付の意味
小法廷から大法廷への回付は、極めて重要な憲法判断が必要とされる場合に行われる手続きです。裁判所法10条により、次のような場合には大法廷で審理されます。
- 法律、命令、規則、処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき(初の判断、または判例変更を伴う場合)
- 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前の最高裁判例と異なるとき
- その他、大法廷で裁判することが相当と認められるとき
今回の回付は、日本の家族法体系の根幹に関わる憲法判断であること、および下級審で判断が分かれていることを受けたものと考えられます。
大法廷とはなにか
最高裁判所には、大法廷と3つの小法廷(第1〜第3)があります。通常の事件は5人の裁判官で構成される小法廷で審理されますが、特に重要な事件は15人全員の裁判官で構成される大法廷で審理されます。
大法廷と小法廷の違い
| 項目 | 大法廷 | 小法廷 |
|---|---|---|
| 裁判官の人数 | 15人全員 | 5人(3小法廷) |
| 定足数 | 9人以上 | 3人以上 |
| 判決の意義 | 判例・憲法判断の確定 | 通常の上告審理 |
| 扱う事件 | 憲法判断、判例変更、社会的影響の大きい事件 | 個別事件の上告審 |
| 開廷頻度 | まれ(年数件程度) | 日常的 |
| 裁判長 | 最高裁長官 | 小法廷の長(裁判官の中から選任) |
過去の大法廷判決の例
大法廷が開かれたのは、戦後の日本で数十件程度にとどまります。代表的なものとして次のような判決があります。
- 1973年 尊属殺重罰規定違憲判決:刑法200条を違憲と判断
- 2008年 国籍法違憲判決:非嫡出子差別を違憲と判断
- 2013年 婚外子相続差別違憲判決:民法900条4号但書を違憲と判断
- 2015年・2021年 夫婦同氏制合憲判決:民法750条を合憲(ただし反対意見多数)
- 2023年 性同一性障害特例法 生殖能力要件違憲判決:性別変更のための手術要件を違憲
これらの大法廷判決は、いずれも立法府に大きな影響を与えてきました。同性婚訴訟も、大法廷で結論が出れば、国会による民法・戸籍法改正の動きを強く促すことになると予想されます。
高裁段階の判断の分かれ方
同性婚訴訟は、2019年から全国5地裁(札幌・東京・名古屋・大阪・福岡)で一斉に提起され、その後2次訴訟も加わって高裁段階まで進んできました。高裁での判断は5対1で違憲優勢となっており、今回大法廷が回付を受けるに至った大きな理由の一つです。
高裁判決一覧
| 高裁 | 判決日 | 結論 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 札幌高裁 | 2024年3月14日 | 違憲 | 憲法24条1項・2項、14条1項に反する |
| 東京高裁(1次) | 2024年10月30日 | 違憲 | 憲法24条2項、14条1項に反する |
| 福岡高裁 | 2024年12月13日 | 違憲 | 憲法24条2項に反する |
| 名古屋高裁 | 2025年3月 | 違憲 | 憲法24条2項、14条1項に反する |
| 大阪高裁 | 2025年3月25日 | 違憲 | 憲法24条2項、14条1項に反する |
| 東京高裁(2次) | 2025年7月 | 合憲 | 立法府の裁量の範囲内 |
違憲とした判決のロジック
違憲と判断した5件の高裁は、主に次のような理由を挙げています。
- 婚姻制度の本質:憲法24条2項は「婚姻及び家族に関する事項」について個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきと定めており、同性カップルを完全に婚姻から排除する現行法は立法裁量を逸脱している
- 平等原則違反:同性カップルには異性カップルと同等の法的保護を受ける権利があり、性的指向による差別的取扱いは憲法14条1項に反する
- 立法不作為:同性カップルを保護する制度を設けないことが、国会の合理的期間を超えた立法不作為に該当する
合憲とした判決のロジック
一方、東京高裁(2次)は合憲判断を下しました。その理由は次のとおりです。
- 立法府の裁量:婚姻制度の設計は立法府の広範な裁量に委ねられており、現行法が直ちに違憲とまではいえない
- 段階的対応の余地:パートナーシップ制度など、婚姻以外の形での法的保護を段階的に整備する余地がある
- 憲法24条の文言:「両性の合意」という文言は、制定時の立法者意思として異性間を前提としていた
この判断の分かれが、まさに最高裁による統一判断を必要とする状況を生み出しています。
主な争点
大法廷での審理において、中心となる論点は以下の3点に整理できます。
争点1:憲法14条(法の下の平等)違反の有無
民法・戸籍法の「異性婚のみ」規定が、性的指向を理由とする差別にあたるか。
- 原告側:同性カップルは異性カップルと本質的に同じ関係性を持ちながら、婚姻制度から完全に排除されている。これは合理的根拠を欠く差別である
- 被告(国)側:婚姻制度はそもそも「一男一女」を前提に設計されており、性的指向による差別ではなく、婚姻の定義そのものの問題である
争点2:憲法24条(婚姻の自由)の射程
憲法24条1項の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」との文言が、同性間の婚姻を含むか否か。
- 原告側:「両性」は文言上、異性カップルを指しているように読めるが、これは制定時の時代背景に過ぎず、現代の解釈では個人の尊厳と婚姻の自由を保障する趣旨と解すべき
- 被告(国)側:24条1項は異性婚を前提としており、同性婚を含めない現行法は文言に忠実な解釈である
さらに、24条2項(婚姻・家族に関する事項の法律事項)の解釈も重要な争点です。この規定は「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」に基づく立法を求めており、これを根拠に違憲と判断した高裁もあります。
争点3:立法裁量の範囲
仮に現行法が一定の問題を抱えていても、それを国会の裁量の範囲内とみるか、裁量逸脱とみるか。
- 原告側:2015年に夫婦同氏制度について大法廷が合憲としたが、その後の社会状況の変化を踏まえれば、同性婚については立法裁量を逸脱している
- 被告(国)側:パートナーシップ制度の普及など、立法府は段階的に対応しており、婚姻制度そのものの改正を裁判所が強制するのは三権分立に反する
今後のスケジュール
大法廷での審理は、通常1〜2年程度の時間を要します。同性婚訴訟のスケジュール見通しは次のとおりです。
- 2026年度内(〜2027年3月):口頭弁論が開かれる可能性。複数事件を併合して審理する見通し
- 2027年以降:判決言渡し
- 判決後:違憲判断の場合、国会は法改正に着手する可能性が高い(立法不作為への違憲確認の場合、即時改正は求められないが、政治的圧力は極めて大きい)
最高裁が過去に違憲判断を下した事件(尊属殺、非嫡出子相続差別、夫婦同氏違憲意見など)では、1〜5年以内に立法府が対応するのが通例となっています。
当事者・自治体・企業への影響
同性カップルへの影響
現在、日本にはパートナーシップ制度を導入する自治体が400超ありますが、法的効力は限定的です。婚姻と同等の権利(相続、税控除、在留資格、医療同意、養子縁組など)は認められていません。
大法廷で違憲判断が出れば、次のような変化が期待されます。
- 相続権・遺族年金の取得
- 配偶者控除など税制優遇の適用
- 在留資格における「配偶者」としての取扱い
- 医療現場での意思決定権の明確化
- 特別養子縁組の可否
自治体への影響
パートナーシップ制度を導入済みの自治体では、制度の見直しや婚姻制度への接続が検討されることになります。制度未導入の自治体でも、住民サービスの整備を進める必要が出てきます。
企業への影響
既に多くの企業が同性パートナーへの福利厚生(慶弔休暇、家族手当、社宅利用など)を拡大していますが、法的婚姻が認められれば次のような対応が必要になります。
- 就業規則・社内規程の「配偶者」定義の見直し
- 扶養控除・社会保険の手続き変更
- 海外赴任時の帯同家族としての取扱い
- グローバル企業における人事制度の統一
世界の動向との比較
先行する主要国
同性婚を法的に認めている国・地域は、2026年時点で40を超えています。
| 国・地域 | 同性婚合法化 | きっかけ |
|---|---|---|
| オランダ | 2001年 | 世界初 |
| 米国 | 2015年 | 連邦最高裁 Obergefell v. Hodges |
| 英国 | 2013年(イングランド・ウェールズ) | 議会立法 |
| 台湾 | 2019年 | 大法官違憲判断+立法 |
| ドイツ | 2017年 | 議会立法 |
| フランス | 2013年 | 議会立法 |
| オーストラリア | 2017年 | 国民投票+議会立法 |
米国:Obergefell v. Hodges(2015年)
米国連邦最高裁は2015年、Obergefell v. Hodges判決で全米における同性婚を認めました。判決は憲法修正14条のデュープロセス条項および平等保護条項に基づき、同性カップルに婚姻の権利を保障したものです。
英国:議会主導型
英国では2013年に「婚姻(同性カップル)法」がイングランド・ウェールズで成立し、その後スコットランド(2014年)、北アイルランド(2020年)へと広がりました。司法判断ではなく議会立法により実現したモデルです。
台湾:アジア初
台湾は2017年に司法院大法官(憲法裁判所に相当)が違憲判断を下し、これを受けて2019年に「司法院釈字第748号解釈施行法」が成立。アジアで初めて同性婚を法制化しました。台湾の事例は、司法と立法の協働モデルとして日本にも示唆を与えるものです。
日本の位置付け
G7諸国の中で、同性婚も登録パートナーシップ(全国レベル)も認めていないのは日本のみとなっています。OECD諸国でも日本は少数派です。今回の大法廷判断は、国際的な動向に日本がどう向き合うかを示す試金石ともなります。
まとめ
2026年3月25日の大法廷回付決定は、日本の家族法と人権保障の歴史において極めて重要な転換点となる可能性を秘めています。
- 最高裁第3小法廷は、同性カップル6件の訴訟を大法廷に回付することを決定
- 大法廷は裁判官15人全員で審理し、憲法判断を行う特別法廷
- 高裁判決は5対1で違憲優勢、最高裁が統一判断を示す必要がある状況
- 争点は憲法14条(平等)・24条(婚姻の自由)違反の有無と立法裁量の範囲
- 口頭弁論は2026年度内、判決は2027年以降の見通し
- 違憲判断が出れば、民法・戸籍法の改正議論が加速する可能性
- 米国・英国・台湾など40超の国・地域が既に同性婚を認めており、日本の動向が国際的にも注目される
大法廷の判断は、立法府への強いメッセージとなり、同性カップルの法的地位、自治体のパートナーシップ制度、企業の人事制度など、社会の広範な領域に影響を及ぼします。判決までの1〜2年は、日本の家族のあり方を問い直す重要な期間となるでしょう。
同性パートナーとの法的関係(遺言、任意後見、財産管理、養子縁組など)についてご相談のある方は、家族法に詳しい弁護士にお早めにご相談ください。現行法下でも、可能な限りの法的保護を組み立てることができます。